ブックタイトル森林のたより 774号 2018年3月

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概要

森林のたより 774号 2018年3月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹輪かんじきⅡ151前回に引き続きカンジキの話をします。カンジキを使う地域は北海道から山陰地方まであり、縄文時代の是川中居遺跡(青森県八戸市)からは漆塗りの櫛や樹皮製の容器とともに、つる製のカンジキらしきものが出土しています。日本のカンジキを形態的に見ると、11本の素材を曲げてつくる円形・楕円形・ヒョウタン型の「単輪(たんりん)型」、22本のU字型の素材を組み合わせた楕円形の「複輪(ふくりん)型」、3木または割竹を横に並べて、すだれのようにした「すだれ編型・板状型」の3つに分けられます。厳密には積雪量や雪質、使用目的によって形やつくりは異なりますが、民俗学調査によると、本州ではネマガリダケの3年ものなどを曲げた単輪型を基本とし、単輪型の東限は新潟県~福島県の線とされ、複輪型の西限は滋賀県~岐阜県とされます。新潟県を例にとると、積雪の少ない新潟市などは水田と共用できる「すだれ編型」のカンジキが使われ、雪深い魚沼地方などでは雪踏み用に横幅が50~60cmもある大型のスカリやゴカリという「単輪型」カンジキが利用されました。更に山奥の豪雪地帯ではスカリの上に小型のカンジキを二重に履いて利用しました。北海道では複輪型のカンジキが主流で、新潟県の山間部から開拓入植した人々も単輪型よりも複輪型を使用していたそうです。アイヌの人々は狩猟に出かける時、冬季の新雪のような軟雪用にはサルナシのつるをひょうたん型にし、横に木もしくは縄を6本渡したテシマというカンジキを使いました。また、春季の堅雪用にはヤマグワの割り木などを馬蹄型などにしたチンルというカンジキを使いました。更に、堅雪が凍った場合は、カンジキの下に木製の爪やエゾシカの角をつけ、傾斜地を歩く専用のものは、前部を上に反りかえした形として歩きやすくしました。ここで輪カンジキの材料について見ると、基本的に入手し易く、粘りのある樹種が使われています。全国的にはクロモジやマンサク、マユミ、グミ、ヤマボウシ、クマヤナギ、アブラチャン、オオカメノキ、リョウブ、ネマガリダケが使われ、北海道ではサルナシやヤマグワ、イタヤカエデ、秋田県などではサルナシ、新潟県や長野県ではトネリコなどが使われました。さて私のカンジキはクロモジでできた登山や狩猟用のものと、クマヤナギとネマガリダケでできた平原用、雪降ろし用のものですが、今では昔を語る一品になってしまいました。▲左が登山用、右が雪降ろし・平原用MORINOTAYORI 4