ブックタイトル森林のたより 775号 2018年4月

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概要

森林のたより 775号 2018年4月

-コオロギ屋敷、ヨーロッパイエコオロギ-【第321回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira昨年(平成29年)の12月号でお話ししたように、我が家では飼育中に逃げ出したヨーロッパイエコオロギ(以下、コオロギ)が、お盆過ぎ頃から台所の片隅で鳴き始めた。その鳴き声は野外で耳にする音色より、より風流であった。この風情ある音色を聞きながらビールを飲んだ。美味しかった。そのうちに、小学生の頃よく唄った「虫のこえ」という唱歌を思い出し、「あれ松虫が鳴いているちんちろちんちろちんちろりんあれ鈴虫も鳴き出したりんりんりんりんりんりん―」と口ずさんでしまった。そして2番の「きりきりきりきりコオロギが―」となったとき、我が家で鳴いているコオロギの音色を聞き直した。しかし「きりきり」ではなかった。「ころころ」のようにも聞こえ、この両方の混じった表現の難しい鳴き声であった。だから風情があるのだと思った。この音色も9月上旬には聞かれなくなりさびしくなった。でも、しばらくすればまた鳴き出すだろう。しかも今度は飼育中に前より大量に逃げだしているので、大合唱になるのは間違いない。これが楽しみであった。9月下旬、再びコオロギが鳴き始めた。それもあちこちの部屋からである。これが我が家の秋の風物詩だと喜んだ。しかし、そうではなかった。私には笑い話に過ぎなかったのに、家族にとっては大事件?となったのである。以下、それら笑い話のいくつかを紹介しよう。××××ある夜のことである。女房が「お父さん、ゴキブリが何匹もいる。退治して」と大きな声。「ついにきたか」と私は苦笑した。それは数日前からコオロギがうろちょろしはじめたからである。コオロギもゴキブリも女房にすれば動き回る黒い塊。だから、コオロギをゴキブリだと思い、あの大声となったのである。今後さらにコオロギは増えるであろう。これが、家の中を走りまわれば、ゴキブリ嫌いの女房は鳥肌の立つ日々が続く。そのうちに「ここはゴキブリ屋敷だね」と皮肉を言われるような予感がし、またまた笑えてきた。しかし、コオロギは夜に活動をするので、昼間はあまり見ることができないはずだ。それが、我が家では昼間から動き回り、否応なしに目に入る。なぜか。これは餌事情が悪いので、昼間も餌を探しているのだろうと思った。数日後、それを確認した。皮肉にも私の昆虫標本が食べられたからである。ばらばらになった無残な姿を見て、今後さらにいろいろなものに被害?でる・・・そんな不安が生じた。××××コオロギは雑食性で何でも食べる。このため餌がなければ仲間を殺して食べることもある。我が家でもその無残な死骸が数多く見られた。また、翅と足だけしか残っていないゴキブリの残骸もあった。ゴキブリの死骸が貴重な餌となっていたのである。しかし、これで大量のコオロギの腹を満たせるわけはない。食事の材料まで食べ始めたのである。最初に食べられたのはニンジン。女房が料理に使おうとしたら表面が囓られていたのである。その後もナス、キュウリ、ジャガイモ、キャベツ、梨などいろいろなものが次々と被害にあった。いずれも表面だけなので料理に使えたが、女房は「また、コオロギに食べられた」とご立腹の日々。そのうちに女房の前でコオロギの話はできない雰囲気になった。こんな時、さらに頭の痛い問題が起きた。イ▲ヨーロッパイエコオロギモ、大根、ニンジンなどを煮つけた料理の中にコオロギが入っていたのである。たまたま私が見つけたのでよかったが、もし女房の目に入っていたら、それこそ―。私は口にチャックをした。××××10月になるとコオロギはものすごい数となり、昼間は部屋のあちこちを集団で歩き回り、夜になると鳴き始めたのである。それが大合唱。とても風情ある音色ではなかった。騒々しい鳴き声であった。しかし、そのうちに気にならなくなってきた。大合唱に慣れたのである。そんなある日、娘(次女)が孫をつれて遊びに来た。孫ははじめて聞いたのかコオロギの大合唱に大喜び。歩き回るコオロギを捕まえようとする。よい遊び場だった。ところが娘は女房と同じようにゴキブリが大嫌い。「お父さん、なんでこんなにゴキブリがいるの」とコオロギを見るたびにわめく。このわめきが3日間続いた。娘が帰った。これでゴキブリ騒動も終わったと思った。ところがそうではなかった。そのあとに大騒動となったのである。娘は帰るとき女房の作った料理を大量に持ち帰った。それを夕食に出したら煮豆の中にコオロギが入っていたという。これを聞いた女房は強い口調で「お父さん、家の料理にも入っていたのではないの」と私を責める。「入っていないよ」。そして「コオロギは美味いかもしれないよ。同じ仲間のイナゴが食べられているのだから」と付け加えた。これがいけなかった。「とにかくコオロギを飼うのは止めて。娘はコオロギ屋敷に帰るのは嫌だと言っていたから」と女房。コオロギ屋敷か。でもゴキブリ屋敷よりは聞こえはいいなーと、思わず笑えてきた。MORINOTAYORI 16