ブックタイトル森林のたより 775号 2018年4月

ページ
4/22

このページは 森林のたより 775号 2018年4月 の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 775号 2018年4月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ダンコウバイ152「この香る花はダンコウバイですよ」、淡く黄色の花を見つけた人に名前を聞かれ、そう答えました。3~4月に花を咲かせるダンコウバイ(Lindera obtusiloba)は、クスノキ科クロモジ属の落葉低木で、雄株と雌株が存在する雌雄異株です。雄株の花は長さ3~4cmの花被片に9本の雄しべと退化した雌しべがあります。雌株の花は長さ2~3cmの花被片に、雌しべと9本の退化した雄しべがあるため、よく見ないと雄株なのか雌株なのか見分けがつきません。淡黄色の花一つ一つは小さいのですが、小花が密に集まって塊になっているため、香りも感じやすくなっています。雄株は雌株に比べて花被片が長く、華やかさを感じるため、花材としても流通しています。名前の由来は「檀香梅」で、本来、中国原産のロウバイ(ロウバイ科)の一品種の漢名であったものを、明治時代に田中芳男先生(1838~1916年)がこの樹の和名に転用したため、そのまま定着したとされます。余談ですが田中先生は天保九年、信濃国飯田(現長野県飯田市)に生まれ、後に名古屋の伊藤圭介に入門して本草学を学んだ人物で、国立科学博物館の生みの親でもあります。檀香梅の「檀香」とは白檀など香木の総称で、木材にビャクダンのような香りがあるため、またウメと同じ時期に咲く花が芳香を漂わせるため、この名を転用したのでしょう。クロモジ同様に芳香性ある木材は、楊枝に利用されたり、細工物などに利用されたりしました。葉は先の方が三つに浅く裂けた広卵形を基本としますが、切れ込みのないものもあり、どの葉も揉むと良い香りがします。秋には果実が黒く熟すため、種子を取り出して油脂を絞り燈油としました。また朝鮮半島では種子から絞った油を「東柏油」と称し、頭髪油として珍重しました。ダンコウバイは葉が展開する前は、アブラチャン(Parabenzoinpraecox)と見分けがしづらく、自生地が山地の低いところであることや、根元から株立ちする樹形の様子、花の形や色彩などがよく似ています。しかし花の時期によく観察すると、ダンコウバイの花はアブラチャンに比較して大きく、黄色が濃く、花序には柄がほとんど無く、芳香が強い等の特徴があるの対し、アブラチャンは柄があること等から区別できます。また落葉期であれば、ダンコウバイの若い枝は比較的太く緑色をしており、折るとニッケイのような良い香がしますが、アブラチャンは細かく枝分かれして先端の方まで灰色で、折ると杉板を削ったような香がする等の違いがあるので、一度試してみてください。▲小花が密に集まって大きな塊になっているMORINOTAYORI 4