ブックタイトル森林のたより 776号 2018年5月

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概要

森林のたより 776号 2018年5月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹キリ153甘い香りを放つ花を咲かせるキリ、この図柄が5百円硬貨に刻印されていることをご存知ですか。キリは葉を開く前に、淡紫色で釣鐘型の花を咲かせます。花冠は長さ約5cmで、先端は唇状に五裂し、外側は淡紫色で内側には白色に紫点があり、これが集合して円錐花序を形成します。キリ(Paulownia tomentosa)の属名Paulowniaは、その花の美しさから19世紀のオランダ女王AnnaPaulownaに因んでシーボルトがつけたもので、種小名のtomentosaは「密に細綿毛がある」ことを意味しています。和名は少し成長したキリを根元から伐っても、すぐ芽を出して速く成長する「伐り(きり)」とか、木材の木目が美しい「木理(きり)」が由来とされます。成長が早く、樹齢約20年で利用できるため、昔は「女の子が産まれるとキリを植えて、嫁に出す時に伐って嫁入り道具の箪笥を作り、孫が家を建てる時は屋敷林のケヤキを大黒柱にする。」と言われたそうです。木材は多孔質で比重0・29~0・31と、国産樹種の中で最も比重が小さく、軽いばかりか狂いが少なく、かつ湿気を通さず、燃え難いなど優れているため、箪笥や火鉢、金庫の内装、下駄、茶道具に広く使用され、特に和琴の精妙な音色は桐材なくしては発せられないとされます。木材が燃えづらい理由は、細胞内部に乾いた空気が満たされ熱伝導率も小さい点、発火点が425℃(スギは240℃)と発火し難く、熱を受けても材が割れ難いためです。また乾燥しても収縮率が小さく、抽斗(ひきだし)と箪笥本体に隙間なくピッタリとつくることができるため害虫が入りづらく、外気と遮断し温度や湿度の変化を受け難くします。加えて材内にパウロニンやセサミン等の成分が含まれるため害虫が寄り難く、多量のタンニンも含むため、極めて腐り難いのも特徴です。このように軟らかくて比重の軽いキリ材は、湿度を一定に保つ恒湿作用が高く、箪笥内部の湿度が一定に保たれるため衣類の長期保存に適しているのです。有名な銘柄産地は会津桐、南部桐、地桐などですが、品質の良い桐箪笥は何百年も使うことができ、汚れたら洗ったり、削り直したりして綺麗に蘇らせることもできます。現在のように運搬事情が良くない江戸時代までは、大荷物の移動に苦労したためキリの嫁入り箪笥は軽くて丈夫で持ち運び良く、火事にも強い万能な家財道具だったのです。原産国の中国では、梧桐(アオギリ)に鳳凰が飛来する伝説があり、日本に伝わる時点で樹種がキリに変わっても神聖視され、後醍醐天皇より賜った足利家の家紋や、豊臣秀吉の五三桐(太閤桐)のように「桐紋」は憧れの文様とされたのです。▲淡紫色の花からは甘い香りが漂いますMORINOTAYORI 6