ブックタイトル森林のたより 777号 2018年6月

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概要

森林のたより 777号 2018年6月

-そうなんやさー、アメンボ-【第323回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira早いものでピョンチャン(平昌)オリンピックが終わって1ヶ月が経過した。連日テレビで放映された選手たちの熱い闘い。今でもその光景が目に浮かぶ。どの選手も厳しい練習に耐え、力と技を磨いてきた超一流のアスリートばかりだ。それだけに栄光を手にした選手の満面の笑み。思わず拍手を送りたくなる。逆にあと一歩のところで手が届かなかった選手。その悔しい表情には胸がつまった。時には勝者と敗者が抱き合い、お互いの健闘をたたえあっていた。この姿を目にし、これが本当のスポーツマンだと心がなごんだものである。また、パラリンピックの選手の闘う姿には感動した。障害というハンディを背負いながら、それを感じさせないあの迫力あるスキーの滑り。転倒しても諦めず、起き上がって最後まで滑り続けた選手もいた。この気力と精神力には敬服してしまう。歳とともに気力が萎えていく自分自身。闘う前から敗者だと情けなくなる。「オリンピックは参加することに意義がある」という。まさにその通りであろう。しかし、オリンピックも勝負の世界。勝たなければならない。特にメダルを獲得すると脚光を浴び、一躍有名になるからだ。私自身、メダルを獲って初めて知った選手が何人もいた。これらの選手を含め特に印象に残っているのは、スピード競技の小平奈緒、高木姉妹とスキージャンプの高梨沙羅選手。それとカー娘と呼ばれたカーリングの選手である。今でもその闘う姿が脳裏に浮かぶ。そのうちに、これらの選手が昆虫だったら何だろうかと、私の悪癖であるパズル解きを始めた。××××しかし、開催時期は冬。闘う場所は雪上と氷上。このような場所で活動する昆虫はいない。このパズル解きはできないと諦めかけた。その時、ふと思った。雪も氷も溶ければ水になる。だったら水上だ。この強引なこじつけで考えた。パズルが解けた。アメンボである。雪の上と氷の上で競技している選手が、水上を疾走しているアメンボのように映ったからである。アメンボ。漢字で書けば飴棒。これが語源である。写真のように体が棒のように細長く、この体から甘い飴のような匂いを出すからである。体には長い足があり、これで水の上をスイスイ泳いだり、跳ねたりしている。餌は水面に落ちてきた昆虫や水辺で死亡している魚やカエルなどの死体。これらに口を突き刺し養分を吸汁し、餌が無くなると別の場所へ飛び立っていくのである。私はアメンボを見ると小学生の頃を思い出す。当時の道路は雨が上がると、あちこちに水たまりができ、アメンボが戯れていた。まるで童話の世界にいるようであった。今でもこの光景が脳裏に浮かび懐かしくなる。××××すごかったのは女子スピード競技の高木菜那、美帆姉妹と小平奈緒選手だ。この3人で金4個、銀2個、銅1個のメダルを獲ったのだからとにかくすごい。低い姿勢で氷上を滑る姿は、水上をスイスイ泳いでいるアメンボのようであった。しかし、このメダルを手にするまでには、想像を絶するような練習と、プレッシャーのかかる闘いの繰り返しだったという。その選手を雑虫と呼ばれているアメンボと一緒にするのは悪いような気がしてくる。そこで、私はアメンボの王様ということで「キングアメンボ」と命名した。女▲長い足のアメンボ子スキージャンプの高梨沙羅選手は私の大好きな選手だ。前回のオリンピックでは金メダル間違いないといわれていたのが、4位。その時の悲しそうな顔。今でも胸がつまる。しかし、今回は間違いなく金メダルだろうと期待した。ところが、間近になってスランプに陥り、結果は銅メダル。私はスキージャンプ世界選手権で53勝もしている高梨選手は落胆しただろうと思った。ところが「皆様に応援して頂いたお陰で、メダルがとれました」と笑顔で答えていた。そして、その後に目から涙があふれ出てきた。今回もプレッシャーという魔物が潜んでいたのか、と私も目頭が熱くなってきた。小さな体で上空を舞う沙羅ちゃん。大きなアメンボが天空を羽ばたいているように映った。××××カーリング。私はこの競技に興味がなかった。ところが連日女子チームの熱戦がテレビで放映され、見ているうちに好きになってきた。というよりあのカー娘と呼ばれる選手たちだ。アメンボ集団が水上で戯れているようで、どの選手も表情がよかったからである。銅メダルが決まったとき、5人が抱き合って大喜びし、そして大泣き。観衆は総立ちして大歓喜。場内に響き渡っていた。このオリンピックで最も心に残る光景であった。それとカー娘たちが使っていた「そだねー」という地元の言葉。この素朴な言葉が大好評で、多くの人の心を引きつけた。私もこの言葉が好きで「そだねー、そだねー」と口ずさんでいるうちに「そうなんやさー」。いつの間にか私の故郷である飛騨弁に代わってしまった。これも素朴な言葉だと懐かしくなり、もう一度口ずさんだ。「そうなんやさー」MORINOTAYORI 12