ブックタイトル森林のたより 777号 2018年6月

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概要

森林のたより 777号 2018年6月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ヤマボウシ1546月の飛騨の山々を彩るヤマボウシの花。白く先端がとがった花弁のように見える部分は総苞片と呼ばれる組織です。このヤマボウシ(Cornus kousa)の和名は、花の中央にある丸い集合果を法師の頭(比叡山の僧兵の頭)に見立て、白い総苞片を白衣(しろごろも)に見立てて「山法師」と呼んでいた美濃や尾張の地方名が由来です。全国的には新潟~福井に至る日本海側、三重、和歌山、京都、兵庫、鳥取、愛媛、高知ではイツキ、ウツキと呼ばれ、山形ではダンゴギ、秋田や山形、群馬、埼玉、長野、新潟、静岡ではヤマグワなどの別名で呼ばれました。ちなみに学名に使われる「kousa」とは箱根での別名「コーサ」に由来します。万葉の時代にはツミ(柘)と呼ばれたとする考え方もあり、『万葉集』には”この夕(ゆうへ)柘(つみ)の小枝(さえだ)の流れ来(こ)ば梁(やな)は打たずて取らずかもあらむ“と若宮年魚麻呂が詠んだ歌が記されています。これは既に万葉時代にあった伝説「柘枝(つみのえ)の伝説」に関係して詠まれたもので、その伝説の内容は「昔、吉野の里に住む美稲(うましね)という若者が、吉野川に魚を捕る梁(やな)をつくってアユをとっていました。ある日、上流から柘の枝が流れて来て梁にかかったので、家に持ち帰ったら柘の枝が美しい女性になり驚いたものの、彼女を妻に迎えて毎日幸せに暮らした。」というものです。つまり、歌の内容は「この夕べに仙女が化したという柘の枝がもし流れてきたならば、梁をつくって手荒な捕らえ方をしないで、それを取れないものだろうか。」という意味のです。ところでヤマボウシの材は、重硬で割れにくい特徴から、槌や農機具の柄、鉋台、撞木、水車の歯車、餅つきの杵材としても重宝されました。旧徳山村(現揖斐川町徳山)では、雪崩避けの呪文として”前クロモジに、後ボウシ・・・“と唱えました。これは輪かんじきの前輪をクロモジ材で、後輪をヤマボウシ材で作れば、雪崩に遭って走っても壊れないほど頑丈にできることを意味した口伝なのです。『大日本有用樹木効用編(1903年)』には、「材は堅実なるを以てカシのなき寒国にてはカシに代用して鉋台、鑿柄、槌其の他農耕具の柄、油搾器械、橇等に用ひ又下駄の歯とす併し堅に過ぎて滑る患あり又櫛材旋作用材となす。実は食して甘味あるも種子多し此樹の葉サンシュユに似て美にして上品なり故に庭園樹に宜し」と記されているように多方面に重宝された樹木なのです。▲4枚の花弁のように見えるのが総苞片ですMORINOTAYORI 4