ブックタイトル森林のたより 778号 2018年7月

ページ
14/22

このページは 森林のたより 778号 2018年7月 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 778号 2018年7月

-水抜き大作戦、トンボ-【第324回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraトンボ天国と呼ばれるトンボの産地が笠松町の木曽川沿いにある。名前のとおり、この地域一帯、特にトンボ池と呼ばれている周辺にトンボが多いので昔から知られている。私がここを訪れたのは40年近く前。河川敷にいるゾウムシを採りに出かけたのだ。その時、私と同じように捕虫網を手にしている人が数人いた。トンボマニアであった。この時、ここがトンボのたくさんいるトンボ池であることを知った。確かにトンボはたくさんいたような気がする。しかし、それよりはじめて目にするゾウムシを採り、大喜びしたことを鮮明に覚えている。これに気を良くした私は、その後トンボ池へ何回も出かけた。行くたびに必ずトンボマニアがいた。しかし、そのうちに少なくなり、会えない日が多くなった。ある日、「なぜ、トンボマニアが来なくなったのですか」と尋ねた。「トンボが少なくなったからです」との返事。私も狙っているゾウムシが採れなくなったので足が遠のき、いつしかトンボ池は脳裏の奥底で眠ってしまった。××××平成21年、そのトンボ池が20年ぶりに目を覚ました。木曽川を管理している国交省から、トンボ池を再生する委員会を設置したいので、その座長になって欲しいとの要請があったからである。委員は河川の生態、植物、魚類、水質などの専門家と地元代表の方たちであった。この委員の意見を集約して、よい方法を考えなければならない。それには座長がトンボ池の現状を見て、自分の考えを整理しておく必要があると思った。早速、トンボ池へ出かけた。驚いた。トンボ池のすぐ横は広いグランドとなり、草地や藪が無くなり、昔とは大変わりしていたのである。さらに驚いたのはどの池の水も少なく、中央部に残っているだけという無残な状態であった。地元の人によれば、冬は池底が見えることもあるという。水が安定しなければトンボが増えるはずがない。まず池に水を貯める。これを早急に行うべきだと思った。××××委員会が開催された。委員の多くはトンボのことを知らない人ばかりだ。そこで私は次のことを説明した。トンボの幼虫は強い。池底の酸素が不足すれば水面近くへ移動するし、水中植物が少なくなっても幼虫の餌ではないのであまり影響しない。しかし、水が少なくなれば、幼虫は生きていくのが難しいので、まず池の底にたまっている汚泥や土を早急に取り除き、水を安定して確保すべきだ。これを委員は了解。トンボ池の浚渫工事が始まった。翌年からは、トンボ池周辺の竹林の伐採や草地の整備などを進めた。同時にトンボの発生状況や水質調査を行った。工事は終了。池の水は安定し、冬でも少なくなることは無かった。その後、効果をみるため何回かトンボ池へ出かた。池の水面を羽ばたいているトンボの姿がよく目に着き、トンボは間違いなく増えていると確信した。ある日、ここを散策している人に「前に比べトンボはどうですか」と尋ねた。「工事のお陰でずいぶん増えました」と笑顔で返事が来た。「よかった」私は嬉しくなった。よい結果を得て委員会は役目を終えたとまたまた嬉しくなった。××××ところが今年(平成30年)の2月、トンボ池の水を抜いて外来魚を駆除する「水抜き大作戦」が実施されることを耳にした。池に水があるからトンボが増えたのに、これでまた少なくなると落胆した。その実施日は5日後。今さら中止できるわけはない。主催は某テレビ局と地元。お笑いタレントをゲストに迎え、市民総参加の大イベントだという。しかし、この時期はまだ寒い。参加者は少ないだろうと思った。当日その様子を見に出かけた。9時から受付なのに、8時にはもの▲ヤゴすごい人。ざっと数えても300人。午後には600人以上だったとか。とにかくすごい人だった。これが人気芸能人の集客力かと驚いてしまった。水抜きがはじまった。水が少なくなるとタレントや市民が池に入り、競って魚類などを捕り始めた。次々を獲物?が捕れた。それを容器に入れた。コイ、フナ、ブラックバスなどの魚類やエビ、カメなどたくさんいた。この小さな池にこれだけの生き物がいることが信じられなかった。特に多かったのがフナとコイ。ほとんどが30cm以上の大物だった。当然、これらの餌はトンボを含め水性昆虫のはずだ。食べる量も多いだろう。それなのにトンボは年々増えていた。弱者は餌食になる数よりもたくさん卵を産む。自然界を生き延びる知恵をここでも見たような気がした。捕獲したもののうち、フナ以外は殺処分するという。翌日、再びトンボ池を訪ねた。驚いた。池にかなり水が貯まっていたのである。水を抜いた業者の話では、湧水が出てきたのと、抜いた水を貯めておき、これを戻したからだという。水面の泥上にはトンボのヤゴがいた。これを見ているうちに、「今までヤゴは魚類の餌になっているはずだ。それなのにヤゴはたくさん生きていた。となるとこの水抜きで捕食者が少なくなったので、逆にトンボは増えるのではないか。」是非、そうなってほしいと願った。MORINOTAYORI 14