ブックタイトル森林のたより 778号 2018年7月

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概要

森林のたより 778号 2018年7月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹冬虫夏草155ある年の七月、知り合いから自宅の庭に面白いものが生えていると電話がありました。話の内容からして、どうもセミタケ(Cordycepssobolifera)が出ているのだろうと思い浮かべながら電話を切りました。セミタケは俗に「冬虫夏草」と呼ばれるキノコの一種で、セミの幼虫に寄生する子のう菌類です。昆虫類に寄生し、冬は虫で、夏は草の姿になると考えられていたものを広い意味での「冬虫夏草」と呼び、中国では強壮剤にしました。この仲間は世界中に350種以上、日本には約150種あり、棒状や棍棒状、枝状のキノコをつくります。セミタケの属名Cordycepsは、kordyle(瘤)とceps(頭)に由来し、キノコ先端付近の内部に子のう胞子と呼ばれる有性胞子を形成するためです。種小名soboliferaはラテン語で、芽を生じたという意味です。子のう菌の戦略は巧みで、昆虫類の呼吸器や消化器や節等、柔らかい表皮に付着した胞子が発芽管を出して表皮から虫体内部に侵入します。一般に菌糸(白い糸状の菌)をつくらず、分節菌体という酵母状の形に変身して、虫体内のタンパク質や脂肪、体液などを栄養にして血液中で増殖し続けます。乗っ取った寄主昆虫が死んでミイラ状に硬くなると、繁殖した菌は菌糸になって菌核を形成し、翌年子実体生育に適した気候条件になると死んだ昆虫の表皮からキノコを発生させます。セミタケの場合は、林床で落葉や腐植層に身を潜めている菌類が、秋に地中にもぐりセミの幼虫の外殻を加水分解して侵入し、温度と湿度が整った翌年六~九月にきのこを発生させるのです。セミタケは中国では蝉花(金蝉花)と呼んで、小児のてんかんや引きつけ、夜泣きなどに利用します。これによく似たツクツクボウシタケからは、免疫抑制作用を有するミリオシン(myriocin)という物質が見つかっており、サナギタケの菌体組織からも抗ガン成分が見つかっています。ところで本来、冬虫夏草と呼ばれるのは、鱗翅類のコウモリガ(蛾)の幼虫に寄生した冬虫夏草(Cordyceps sinensis)です。これは中国奥地やチベット、ネパールに産するコウモリガの幼虫がタデ科の薬草〔珠芽蓼(Polygonunviviparum L.)〕の塊茎根を食べて育つため、それに寄生することで薬効が濃縮するとも考えられています。セミタケと言えば、昔、お世話になった大学の先生が、「川尻さん、このセミタケも体に良いんだよ」と言いながら囓っていたことを思い出しますが、私には未だにその効能が未知数なのです。▲セミの幼虫に発生したセミタケMORINOTAYORI 4