ブックタイトル森林のたより 782号 2018年11月
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森林のたより 782号 2018年11月
-パクッと口でくわえる、トンボのヤゴ-【第328回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraトンボの幼虫はヤゴと呼ばれ、水中で暮らしている。これはほとんどの人が知っているであろう。しかし、ヤゴは何を食べているのか。と聞けば多くの人は知らないのではないか。先般、中年のおばさん、いや高貴なご婦人数名に、このことを聞いてみた。誰も知らなかったのである。ヤゴのことがこんなに知られていない。驚きと言うより、これが現実かと思った。私はボウフラやミジンコ、赤虫などを食べていると説明した。するとある人から「そんな小さなものをヤゴはどのようにして捕らえるの」と逆に質問された。私は困った。私自身、見たことがなかったからである。「パクッと口でくわえるの」と適当に答えてしまった。この会話はこれで終わったが、ヤゴがどのように餌を捕るのか。自分の目で見て確かめたくなった。しかし、ヤゴの飼育は面倒くさい。わざわざ飼育する気は起きなかった。ところが、神様がそれを許してくれなかった。数日後、孫のY君が「お爺ちゃん、これどうやって育てるの」とヤゴを持ってきたからである。可愛い孫のY君の頼みだ。断るわけにはいかない。「わかった。お爺ちゃんと一緒に育てよう」と答えてしまった。××××Y君の通っている小学校では、毎年この時期になるとプール掃除をする。その時、ここにいるヤゴを獲り、欲しい生徒に渡しているという。Y君は2匹もらえたと喜んでいた。ヤゴはコノシメトンボであった。このヤゴは水槽(中型の虫籠)に水を入れ、ここに放した。まず、餌だ。庭で蚊の幼虫であるボウフラを探した。しかし、ボウフラは見つからない。水の貯まっている容器などがないのである。そこで小さな容器に水を入れて庭の各所に置き、ここに卵を産ませることにした。しかし、ボウフラが獲れるには1週間以上かかる。その間の餌が必要だ。とりあえず観賞魚の餌である冷凍の赤虫を与えた。ひょっとしたら食べるのではと思ったからである。しかし、見向きもしなかった。生きていなければ食べないのである。このままでは餓死してしまう。何かないか。いろいろ考えた。メダカの子供はどうかと思った。我が家で飼っているメダカがちょうど産卵期で、孵化後の小さなメダカがたくさんいたからである。これを20匹くらい与えた。しかし、メダカの動きは素早い。捕らえることはできないだろうと思った。ところが、翌日そのメダカは2匹のヤゴにすべて食べられていたのである。餌はメダカにしようと思った。しかし、何年も育てているメダカの子供を餌にするのは気がすすまなかった。と言うより可哀想だった。××××そこで、近くの小川へメダカを捕りに出かけた。苦労して20数匹捕った。これを水槽に入れた。その日の夜、Y君が「メダカが3匹食べられているよ」と言ってきた。死骸が浮いていたのである。小さなメダカばかりであった。しかし、その後2日経っても死骸はなかった。このヤゴの大きさでは小さなメダカしか食べられないと思った。再びメダカを採りに出かけた。その時、大きなヤゴが捕れた。ハグロトンボだった。これも一緒に飼うことにした。ところが翌日Y君が「ヤゴが1匹死んでいる」と知らせに来た。大きなハグロトンボのヤゴに食べられたのである。弱者は強者の餌食になる。厳しい自然界の一端が、この水槽内でも見ることが出来た。そこで弱いヤゴの隠れ場所としてホテイアオイを水槽に入れた。その後、このヤゴはここに身を隠し、餌を捕るときだけ離れることが多かった。大きなハグロトンボのヤゴはメダカを一瞬のうちに口で捕らえ、肉を食べた。これをY君は真剣な眼差しで見ていた。しかし、小さなコノシメトンボのヤゴはメダカを食べなかった。この大きさでも口に合わなかったのである。幸い、この頃から庭に置いた容器にボウフラが見られるようになったので、これを与えた。ヤゴは空腹だったのか、ボウフラを口でパクッとくわえ食べ出したのである。あの答えは間違っていなかった。あの綺麗なご婦人たちの顔が目に浮かんできた。▲コノシメトンボのヤゴ××××ある朝、「小さなヤゴがいなくなった」とY君が騒ぎだした。探したらホテイアオイに脱け殻が残っていた。成虫になって飛び出したのである。部屋を探したら窓のカーテンに止まっていた。Y君は「親になるのを見たかったなあ-」と残念そうであった。数日後、ハグロトンボの様子が変わってきた。ホテイアオイにつかまり、水に揺られているだけなのである。ひょっとしたら明日成虫になるかもしれないと思った。正解だった。Y君が「親になったよ」笑顔で知らせにきた。ホテイアオイにヤゴがつかまり、それに成虫がぶら下がっていた。Y君はこれを皆に見せると言って学校へ持って行った。どうも皆に自慢したいようであった。学校から帰ったY君は「お爺ちゃん、皆が驚いていたよ」と大喜びであった。この言葉に私も嬉しかった。しかし、トンボの飼育は手間がかかるので、もうする気にはならなかった。そして、さらにY君「今度は大きなオニヤンマを飼いたいので、このヤゴを捕ってきて」。MORINOTAYORI 14