ブックタイトル森林のたより 782号 2018年11月
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森林のたより 782号 2018年11月
文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹イイギリ159下呂市の飛騨川沿いを北上する途中、対岸の山に赤い果実をつけたイイギリを見つけ、車を止めました。果実を観察しようと双眼鏡を覗き見ると、数羽のヒヨドリが果実を食べに来ていました。イイギリ(Idesia polycarpa)は、本州(関東地方以西)、四国、九州、南西諸島に分布する落葉高木です。葉は大きな三角状の心臓形で、縁には粗い鋸歯があり互生します。葉の葉脈は、つけ根から5~7本伸びる「掌状脈」で、よく目立ちます。少し赤みを帯びた葉柄は10~20cmと長く、葉に近い先端に一対の蜜腺(腺体)があります。幼木の成長はきわめて早く、幹をまっすぐ伸ばして樹高10~15mになります。枝は同じ場所から横方向に太めの枝を放射状に伸ばすため、下から見上げると車輪状に枝を広げた樹形となります。こうした枝の伸ばし方はミズキなどでも見られますが、イイギリは枝が太くなる特徴があります。イイギリは雌株と雄株に分かれる雌雄異株なのですが、時に雌雄雑居性のものもあり、4~6月に枝先から10~20cmの円錐花序を垂れ下げます。秋に赤く熟す果実は直径1cmほどの液果で、ブドウの房のように垂れ下がって落葉後も長く残るため、遠目からもよく目立ちます。イイギリの「イイ」は「飯」のことで、イイダコやイイズナなどの固有名詞に見られる接頭辞です。名の由来は、この葉で飯を包んだことからとされ、「キリ」は材が白くて軽く、箱材や下駄材などキリ材の代用としたためとされます。別名として、茨城県ではサワギリ(沢桐)、高知県ではミズギリ(水桐)とも呼ばれますが、多くの地域では艶のある赤い果実をナンテンの赤い果実に例えて、ナンテンギリ(南天桐)と呼ばれました。ところで食器売り場などで販売されている「南天箸」、その多くがイイギリであることをご存じでしょうか。本来、ナンテンでできた南天箸は、水銀などの毒物に触れると変色するため毒殺を免れるとか。材中に抗菌作用があるため下痢止めになるとか。古くから南天箸を使うと中風にならないとか、言われて珍重されました。しかしナンテン材の資源は箸に加工するほど豊富ではなく、その代用品としてナンテンギリと呼ばれたイイギリを使ったのです。それどころか、最近では東南アジア産の鉄木(てつぼく)やアピトンなどの外材でつくった箸を、「茶南天」、「白南天」と称して販売されています。本当のナンテンではないものの、イイギリならば「飯」に通ずる樹木なのだと思いつつ、ヒヨドリがついばむ赤い果実を眺め終え、下呂温泉にたどりついたのです。▲赤い果実がよく目立つイイギリMORINOTAYORI 6