ブックタイトル森林のたより 783号 2018年12月

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概要

森林のたより 783号 2018年12月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹シュロ160年越しに聞く除夜の鐘。梵鐘をつく撞木(しゅもく)はマツ材が最高級とされますが、最近は多くの寺院でシュロ(棕櫚)が利用されています。そもそも撞木にはマツの心材(赤芯)が最適とされ、丸太を縦に四つ割りした芯去り材を丸く削り直して用います。奈良市の業者さんによると、丸太のままでは打鐘で丸太が割れるため四つ割りするそうですが、最近は国産の太いマツが手に入らないため外国産のマツ材やヒノキ材を使うこともあるそうです。シュロは中国南部原産の雌雄異株植物で、日本で生育するヤシ科植物の中でも最も耐寒性が強いため東北地方でも育ちます。シュロは古来、神の依代となる聖樹として、神紋として尊ばれ、葉には魔除けなどの霊力があると考えられたため、神社や寺院に植えたり、家紋(立ち棕櫚、抱き棕櫚)や旗印に取り入れたりしました。日本で見られるシュロは2種あり、掌状に切れ込んだ大きな葉の先が折れて垂れ下がるワジュロ(和棕櫚:Trachycarpus fortunei)と、やや小さめの葉が先まで真っ直ぐなトウジュロ(唐棕櫚:Trachycarpus wagnerianus)に分類されます。属名のTrachycarpusはギリシャ語の「trachys(ざらついた)+carpos(果実)」の意味で、10月頃に藍黒色に熟す球形の液果から来ています。葉柄の基部は幹に接する部分で大きく三角形に広がり、ここから下30~50cmに褐色の繊維質な「棕櫚皮(葉鞘繊維)」が幹を包み込んでいます。シュロは多方面で利用価値があり、若葉を帽子や敷物、雪駄など編み物に、若い花序は食用としました。他にも、葉や果実、花を高血圧や脳出血の予防、治療用に用い、皮と根の乾燥品は止血剤に効果があるとされました。特に多く利用されたのは皮と幹(茎)で、皮を煮沸して亜硫酸ガスで燻蒸後、乾燥させた「晒葉」は耐水性があり、腐りにくく伸縮性に富む特性がありました。このため縄や敷物、雨合羽、ホウキ、たわし、刷毛、下駄の鼻緒などに利用しました。また、幹は鉢や盆、撞木に用いました。さて、撞木にシュロが多用されるのは、他の木材に比べて繊維質で柔らかく、梵鐘を傷めないためで、音が柔らかいため遠音が利かないとされます。音色だけで言うならば、年月を重ねてよく乾燥した重い木が良いのですが、カシやケヤキでは硬すぎて梵鐘を傷めます。大晦日の「除夜」は「古い年を押しのけて、新年を迎える夜」、「一年の迷いを除く夜」を意味し、除夜に百八の煩悩の数だけ鐘を撞いて一年を振り返って反省し、清らかな気持ちで新しい年を迎えるのです。この風習は中国の宋時代に始まり、日本に伝わった鎌倉時代には朝夕二回百八の鐘を撞いていたものが、室町時代には大晦日だけになってしまったのです。▲寺院に植えられているトウジュロMORINOTAYORI 6