ブックタイトル森林のたより 791号 2019年8月

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概要

森林のたより 791号 2019年8月

-アメリカで舞う、モンシロチョウ-【第337回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraこの原稿は3ヶ月前に書いたものである。ネタとしては新鮮味に欠けるが、それを承知であえて掲載した次第。御容赦のほどを。以下、本文。プロ野球のイチロー選手。この名前は誰でも知っているであろう。右に左に打ち分ける打撃と神業のような守備。それに走塁。どれも超一流であった。日本では7年連続首位打者という前人未踏の記録を残したまま、海を渡ってアメリカへ。ここでもヒットを量産。いきなり首位打者と最多安打賞。それに盗塁王にもなった。当然新人賞も受賞。アメリカでも注目される選手となった。これ以降も大活躍。次々と記録を塗り替え、アメリカ野球史に残る選手となっていった。その活躍が日本でも新聞、テレビ、雑誌などで紹介され、アメリカの野球が身近なものになってきた。しかし、イチロー選手も人の子。何年も続けているうちに「歳」という魔物にとりつかれ、以前のような成績は残せなくなってきた。そろそろ引退か。こんな声が聞かれるようになった。そんな時、イチロー選手の所属する球団が今年の開幕試合は日本で行うというニュース。ひょっとしたら、これはイチロー選手の引退試合ではないか。そんな気がした。××××その試合は2019年3月に2日間行われた。イチロー選手は2試合とも出場した。球場は超満員。皆はイチロー選手を応援した。しかし、バットから快音は聞かれなかった。この試合を最後にイチロー選手は引退した。やはり引退か。残念だなーと思った。試合後、引退会見が行われた。集まった報道陣はすごい数。会場を埋め尽くしていた。イチロー選手はどの質問にも丁寧に答えていた。言葉を濁さず本音で話した。これがよかった。中でも「なぜ、これだけ長く野球が続けられたのですか」に対し、「野球を愛したこと」のひと言。これが心に残った。イチロー選手の言葉だからであろう。また、夫人のことを聞かれると「よく頑張ってくれました。妻は試合になるとおにぎりを握ってくれたので、これを食べました。その数2800個くらい。3000個握らせたかったのですが。妻にはゆっくりしてほしいですね」。この言葉も心に残った。会見は深夜まで1時間以上続いた。それでも満席であった。野球選手で、これだけ長時間続いた会見ははじめてではないか。さすがイチロー選手だと思った。××××イチロー選手が引退して1週間経過したある日、某テレビでスポーツキャスターが、平成を代表する野球選手はイチロー、昭和では長嶋と王選手だと話していた。子供から老人までの多くの人に知られているからだという。しかし、他にも実績のある選手がたくさんいるのになぜか。野球に興味のない女房に聞いてみた。やはりこの三人は知っていたし、顔と名前が一致するという。何故この3人なのか。いろいろ考えてみた。その結果、この3選手は球界の紳士。この言葉しか思いつかなかった。試合中に暴力を振るったり、審判に文句を言うことも無く、それ以外に給料でもめたり、スキャンダルで世間を騒がせることもなかったのである。それとここ一番という時に力を発揮したことであろう。これには多くのフアンを興奮させた。イチロー選手でいえばワールド・ベースボール決定戦で決勝打を打って世界一になったこと。その時の笑顔は今でも目に浮かぶ。××××思えば、長嶋、王選手が活躍している時は私の青春真っ直中。虫採りに夢中だった。休日になると昼は虫、夜はテレビで野球観戦と大忙しだった。当時、私はゾウムシ採りを本格的に始めたばかり。はじめて見るものが多く、楽しくて仕方なかった。そのうちにゾウムシの「蟻地獄」に落ち込んでしまった。この「蟻地獄」が私の昆虫人生というかゾウムシ狂い病の始まり。今はそんな気がする。それから30数年後、今度はイチロー選手の時代だ。時代は変わっても私はまだ「蟻地獄」の中。相変わらずゾウムシを追いかけている。しかし、今は「採った!」と心が躍るあの感激。これがほとんど無い。岐阜県にいるゾウムシをほぼ採り尽くしたからである。そのゾウムシが脳裏を去来する。そのうちに、イチロー選手はどのゾウムシだろう。いつものように私の悪癖が芽を吹いてきた。しかし、思いつかない。そこで昆虫全体で考えてみた。豪快にバットを振ってホームランを打つ長嶋、王選手はカブトムシとクワガタムシ。これはすぐに浮かんできた。しかし、イチロー選手は細身のスマートな体で、ヒットを連発する。カブトムシではない。いろいろ考えた。しかし、思いつかなかったのであえてモンシロチョウとした。誰でも知っていることと、身近にいるので親しみやすいからである。しかし、モンシロチョウはどこにもいる超普通種。虫マニアは見向きもしない。これではイチロー選手に失礼だ。そこで考えたのが突然変異で産まれてきた「イチローモンシロチョウ」。体から神秘的な光を放ちながら、花から花へと舞い舞う優雅な蝶だ。そのうちにイチローモンシロチョウがアメリカの広い野原で仲間と飛び回っている姿となった。MORINOTAYORI 10