ブックタイトル森林のたより 791号 2019年8月

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概要

森林のたより 791号 2019年8月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹サネカズラ168美濃市の古城山に登る途中、谷沿いでサネカズラが淡黄色の花を咲かせていました。サネカズラ(Kadsura japonica)は、マツブサ科サネカズラ属に分類される常緑つる性木本で、暖地の湿り気のある土地を好んで生息します。長卵形の葉は長さ5~10cmで互生し、葉質は厚く光沢があり、表面は濃緑色、裏面は淡紫色を帯びることもあります。サネカズラは漢字で「実葛、核葛、真葛」とも記されますが、このサネは「実」を、カズラは「蔓」の総称とされ、「美しい実をつける蔓植物」が名の由来とされます。別名ビナンカズラ(美男葛)、ビンヅケカズラ(鬢付葛)、ビジンソウ(美人草)、トロロカズラ、フノリカズラ等と呼ばれます。これは樹皮を剥いで潰し、水に浸しておくと透明の粘液が出てくるため、これを整髪用(鬢付け)や洗髪用、絹の糊づけや製紙等に利用したことに由来する名前です。特にビナンカズラの名は、武士などが整髪用に用いると「美男になる」とした「美男葛」の意味ともされますが、実際には男女共に整髪用や洗髪用に用いました。俳諧分野では夏の季語として「美男葛」や「さなかずら」が利用されます。基本的に雌雄異株ですが、まれに雌雄同株もあり、夏に葉腋から柄を出して、直径約2cmの釣鐘形の花をつけます。花弁と萼片はともに淡黄白色で、9~15個あり、雌花は受粉すると、花床が球状に膨らみ肉質の花托のまわりに球形の?果を着生させた果実となります。この果実が大変美しいため、サネカズラと呼ばれたのです。秋に赤く熟した果実を乾燥させたものは、生薬で「南五味子」と呼び、チョウセンゴミシの果実(五味子)の代用とされます。主成分はクエン酸、粘液質などで、漢方で滋養、強壮、鎮咳薬として煎じて服用され、民間療法でも咳止めや強壮に用いられました。『万葉集』にはサネカズラを詠んだ歌が十首あり、蔓を手繰って引き寄せるところから「逢う」、蔓が長く伸びて絡むことから「後に逢う、来る」という歌詞の枕詞となっています。万葉の代表歌人である柿本人麻呂は『万葉集巻十一』に、「さなかずらのちも逢はむと夢のみにうけひわたりて年は経につつ」と詠んでいます。つまり「あなたに後でまた出合おうと夢みつつ、年だけがたっていく」という切ない歌を詠んでいます。万葉から愛されてきた美しいサネカズラ、夏の暑さも忘れるほど魅力的な花なのです。▲8月に咲くサネカズラの花(雄花)MORINOTAYORI 4