ブックタイトル森林のたより 792号 2019年9月

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概要

森林のたより 792号 2019年9月

-ゾウムシ大好き養老孟司、ヒゲボソゾウムシ-【第338回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira養老孟司(ようろうたけし)。東大卒の医学博士で解剖学の権威。テレビや新聞でよく報道されるので名前は知っていた。しかし、私とは住む世界が違うので、無縁の人。気にも掛けなかった。ところが、そうではなかった。趣味が昆虫採集だと知ったからである。私と同じではないか。急に身近な人に思えてきた。どんな人なのだろう。気むずかしい人ではないか。どんな虫が好きなのだろう。しかし、一方では超多忙な人なので虫採りなどには行けるはずがない。ただ昆虫が好きなだけなのだろう。こんなことを思っているとき、某テレビが昆虫に熱中する養老孟司博士(以下、博士)の姿を放映した。驚いた。ただの虫好き人間ではなかった。箱根に博物館のような昆虫館を建て、ここで研究をされているスケールの大きな昆虫マニアだったからである。テレビはその様子を次々と紹介した。××××昆虫館は大きな建物であった。壁には整然と並ぶ昆虫標本箱。その数、何百いや数千箱かも知れない。とにかく多かった。どの標本箱にも昆虫が入っていた。大型で綺麗な蝶や頑強なクワガタムシやカミキリムシ、1cmに満たない小さなものまで多種多様であった。これが個人の昆虫標本室。一瞬、目を疑った。採集用具もたくさんあった。大きさの違う捕虫網、これを着ける竿。中には20mもあるような長い竿があった。外国の樹木は高いので、これくらいの長さが必要だとのこと。それにしてもこの竿を高齢の博士が振り回すのだから、すごい体力だと思った。その他にもいろいろな採集用具がたくさんあった。博士の採集に対する執念が伝わってきた。隣の部屋は研究室。ここも、すごい。画像が映し出される顕微鏡や写真撮影装置などの近代兵器?がたくさんあり、この兵器を使って昆虫を調べて標本を作っているという。これだったら、視力の悪化している私の目でも、よく見えるとうらやましくなった。昆虫館の裏山には森林があり、その周辺は草木が繁茂していた。博士はここを散策しながら昆虫を観察し、時々トラップを仕掛けて採集をしているという。この徹底ぶり。すごいと思った。博士が好きなのは甲虫類。中でも好きなのはゾウムシだと言われた。ゾウムシが好き。私と同じだ。さらに身近な人に思え、嬉しくなった。いつか博士にお会いし、ゾウムシの話を聞きたくなった。××××そのチャンスが訪れた。5月に名古屋市で博士の講演会が開催されたのである。会場は超満員。しかもその半数は婦人や子供たち。昆虫マニア以外の人を引き寄せる博士。やはりすごい人だ。講演前に虫友達のI氏と博士を訪ねた。「どうぞ、どうぞ」といって笑顔で対応。気さくな方だった。博士が好きなのはヒゲボソゾウムシの仲間。外見は同じに見えても地域によって微妙に違い、何種類もいること。それに、たくさんいる所と全く生息していない場所、つまり分布の空白地帯があることだという。それで、今は各地へ出かけ調べていると言われた。この底知れぬパワー。やはりすごい人だ。そして最後に博士は言われた「珍しいゾウムシを採ったときの感激。最高ですね」。このひと言でより身近な人となった。「採った!」と私と同じように感激している博士が目に浮かんできた。わずかであったが、大変有意義な時間であった。▲ヒゲボソゾウムシの一種××××講演が始まった。演題は「昆虫採集を通して培う豊かな昆虫人生」であった。まず博士は「私は4歳から虫が好きになり、今でも追いかけています。まあ、むし馬鹿ですね」。この言葉から始まった。皆は爆笑。和らいだ雰囲気になった。この日は子供連れの婦人が多かったから、よく知られている虫の話から始められた。語りかけるような話しぶりが、皆を引きつけた。拍手と笑いの連続であった。途中で退席する人はいなかった。時々、博士は質問を受けて、それに答えられた。これが面白かった。その中の一つ。ある婦人が「息子が虫採りに夢中で、勉強をしないので困っています。どうしたら嫌いになるでしょうか」。「それはあなたが馬鹿。頭の中を改革しなさい」と博士。またある婦人は「うちの息子を昆虫学者にしたいのですが、どのような勉強をさせればよいのでしょうか」。「あなたも馬鹿。親が口を出すべきではない。息子が自分で決める」。こうした類のものが多かった。どれも物足りない回答のように思えたが、博士の人徳なのか皆は納得。やはり博士はすごい。また、博士は「虫好き人間で悪の道へ走ったものはいない。だから虫採りはさせてください」と言われた。そう言えば私も聞いたことがない。何故だ。ふと思った。これは虫の魔力だ。しかし、まてよ。虫マニアは欲しい虫があると相手をペテンにかけて手に入れるし、逆にだまし取られることもある。これが横行している。そうなると虫マニアは詐欺師の集団だ。と変なことを思い笑えてきた。会場では博士の話が続いていた。MORINOTAYORI 10