ブックタイトル森林のたより 792号 2019年9月

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概要

森林のたより 792号 2019年9月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹サンショウ169サンショウの実が熟す9月、七味唐辛子用に収穫する様子がニュースで流れていました。薬味にする果実は10月まで放置すると、赤褐色になった果皮から黒い種子がはじけ飛んでしまいます。サンショウ(Zanthoxylum piperitum)は古くから辛いものを表す「椒」の字があてられ、「山の辛味」という意味で「山椒」と記されます。学名の小種名piperitumは「コショウのような」という意味で、英名もJapanese pepperです。サンショウは雌雄異株の落葉低木で、幹が太くなってくると樹皮にコルク質のイボ状の突起が出始めます。枝には褐色の鋭い棘が対生し、葉は奇数羽状複葉が互生します。5月頃に雄株に咲く花は「花山椒」として食用に、7月頃までに収穫される雌株の未熟な実は佃煮に利用されます。葉は料理のツマとして、魚を煮る時には臭味消しとして利用され、果皮は粉末にして薬味や七味唐辛子の材料に、また糠床(ぬかどこ)などにも利用されていました。中国のカホクザンショウ(Zanthoxylum bungeanum)の果実は「花椒(ほあじゃお)」と呼ばれ、日本のものより辛味や麻痺成分が多く、麻婆豆腐などに利用されています。また、韓国に唐辛子が伝来する17世紀以前、高麗王朝が朝鮮半島を統治した時代の漬け物(キムチの原形)には、ニンニクやミカンの皮と一緒にサンショウが薬味として用いられていました。古事記には「垣下に植しハジカミ、口ひひく」と記されており、このハジカミとはサンショウやショウガを指しています。「ハジ」とは9月以降に果皮が赤く熟すと、果皮がはじけて中から黒い種子が出て「はぜる」様子を表しており、「カミ」とはニラの古名「カミラ」を指し、サンショウの辛味をニラに例えたものとされます。アイヌ民族はサンショウを「サイソ」と呼び、内皮を煎じて痔に塗布し、果実や果皮の煎汁を健胃や整腸に飲用し、果皮の煎汁をかぶれやあかぎれ、水虫に塗布し、生の葉をもんで虫刺されに用いました。果実は漢方で「花椒、蜀椒」と称して健胃や鎮痛、駆虫に用い、日本薬局方に収載されている苦味チンキや正月に飲むお屠蘇の材料としても有名です。主な辛味成分はサンショオールとサンショアミド、他にゲラニオールなどの芳香精油、ジペンテン、シトラールなどで、体を温める効能があります。栽培品種としては刺が無く、果実が大きく、香りが良く、種子が容易に果皮と分離する兵庫県養父市の「朝倉サンショウ」や、江戸時代に幕府に献上されたことでも知られる静岡県の「林香寺サンショウ」、果実が房状になる和歌山県有田川町の「ブドウサンショウ」が有名です。▲サンショウの果実(赤い果皮と黒い種子)MORINOTAYORI 4