ブックタイトル森林のたより 793号 2019年10月

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概要

森林のたより 793号 2019年10月

【森の名手・名人編集担当公益社団法人岐阜県緑化推進委員会専務理事黒﨑隆司】※原本は長文のため、文章の一部を割愛しています。●生年月日:昭和27年5月19日生まれ●職業:建具職人所正幸さんのプロフィールところまさゆき15歳から建具の修業に入り、昭和57年に建具製作技能士1級試験を1位で突破して岐阜県知事表彰を受賞した。平成2年には独立して所建具店を営み、伝統の技を磨き続けている。平成25年の第47回全国建具展示会では、飾り障子「富士山日本平から望む」により文部科学大臣賞を受賞し、平成30年の第52回全国建具展示会では、飾り障子「富嶽三十六景神奈川沖波裏似」で厚生労働大臣賞を受賞した。厚さ1ミリ程度の組子細工や木の色の違いを生かして組み上げられる作品は、繊細で美しく、見る者や使う者の心に響く。近年は、恵那市の森林づくり推進委員として地域の森林づくりへ積極的に提言することに加え、本業では他の建具店と協力して技術の伝承に努められている。名人ん自分に挑戦やないけど、展示会行くとみんなすごい組子を作ってるもんで、自分のをもうちょっと背伸びして上へ上へと。だんだん細くなって、これ以上無理やと思ったんやけど。これじゃつまらねえってこれやって、いま木を変えることによってここまできたんやけど。結局いっぺんやるとここまではできる、ほんでこの次どうしよっかって考えるもんで。自分で仕事始めてからもう忙しいばっかやと、そういう研究したり挑戦したりすることができない。やで偶然にも暇な時間が出てくるもんで、ほんならこんなやつを作ってみよかってことで始めたのがきっかけやね、全国大会に出すのは。今作ってるのは富嶽三十六景のやつ。100%一緒の色じゃないよ、これ。自然な木だけで作ってる。木の自然の色でやるもんで、ぱっと見た時はこんな色でこんな感じってわかるんやけど。よく見ると色が全然違う。木で表現するもんでその感じに見せるには、絵の具で塗るのとは全然違うんや。これなんか実際には柱の分入れて3m60cmだけど、これの内側に紫のフィルムを貼って、組子だけじゃなしにフィルムから浮き出る色を見せてになってそれからまた次の上のものを目指せるの。んで、結局だんだんと地盤ができていって、上のものへ上のものへって、チャレンジしていけるもんで。ここでいいわって、ちいと上がったところで、もうあと努力せずにそのままになるとただの職人になっちゃうんやわ。これからの目標は、富嶽三十六景を仕上げることやね。今はそれこそ森づくり委員会とか、東濃の振興会みたいな横のつながりに手を出してるもんで。建具の仕事がだんだん減ってきてるっていうか、手がかかる時間が減ってきてるもんで、もう少し組子でいろいろ表現できるものを作りたいなーとは思っているんですけど。組子が自分を一番表現するものになってきてるね。菱組(菱形を基本とした組子)で親組子を組む時も糊で組んどる。木っていうのは水分を吸った時は膨らむけど、乾燥したら縮むんよ。だから組んでいる時は大丈夫でも、完成した時にはバラバラになっちゃうこともあるんですよ。なもんで、全部糊使っちゃう。で、糊付けるとそのぶんだけ木が膨らむもんで、ちょうどいい硬さで枠に入っとっても、糊使うと入らなくなっちゃう。それと、木と木を組むと、すうっと滑るんやけど、糊がかむと全然動かなくなる。なもんで、組む時に糊使うとものすごく楽なんや。結局ここをこうやって重ねてこうやっていけるんじゃないかな、ってくらいで作り始めてるもんで、大変やな。できるかできんか半信半疑やから。で誰か、できあがった時に見て、これやってわからんといけん。あー、似とるなーってくらいのもんじゃあかんもんで。似せて形を作るんやけど、ぱって見てこれやっていうのがわかるぐらいの作品でないとだめやもんで。木の自然の色を出していこうと思うと大変なんや。6.これからこのごろは一般の大工さんや建築家さんも結構、既製品の建具を使うようになったもんで。建具屋はちょっと暇な状態やね。まあ10年くらい前からそういう兆しはあったね。でも、うちの場合はてきめんに出てきたのは去年かな。ただ毎年ね、うちら波があるのよ。偶然にもあっちの大工さんこっちの建築家さん何人もの人がいっぺんにかちあうと、やりきれんくらい仕事くるけど、そういう時は金額増えるけど。定期的に仕事をくれる人だけになった時には、もう仕事が1/3くらいになっちゃう。僕は、人に話す時に積み木みたいなものだって話すんですけど。ひとつできるとそれが土台丁度の形に成るように仕上げてくもんで。組子だけ見てもこの色にはならないけど、全部完成して組み上げて初めてこの色に近い色が出てくる。こいつはちょっと、今までで一番難儀や。できたら、来年の全国大会に出したいなーとは思ってるけど。5.組子で全部作りたい下絵をもとに今度サブロク(3尺×6尺)の大きさ、大体90cm×1m80cmのベニヤに絵を描いて、サイズに合わせて組子を作っていくわけやけど、それが描けんのよ。大きさの割合で描いてあるもんで、描けるはずなんやけど描けない、なかなか。作りながら消してまた描いてね。富嶽三十六景の設計図には漁師まで載ってるんやけど、そいつを彫刻では作りたくなくて。彫刻家さんに頼んでやってもらえば結構よう似た形のものができるんやけど。自分で組子で全部作りたい。彫刻にはしたないもんで、工夫してる。結局一つ何か作ると今度また何か作ろうかっていうことで、工夫をしていくんや。富嶽三十六景の美しい組子ひとつひとつ手でていねいに組む作業MORINOTAYORI15