ブックタイトル森林のたより 793号 2019年10月

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概要

森林のたより 793号 2019年10月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹アカネⅠ170茜色の夕日に染まる稲穂の上で舞うアキアカネを見ていると、近くに飛んできた一匹が、アカネの先端に止まりました。アカネ(Rubia akane)は本州や四国、九州に分布するツル性多年生で、路傍や林の縁などでよく見かけます。葉は心臓形から長卵形で長い葉柄があり、葉は二枚が対生するのが基本ですが、よく観察すると茎の下部には葉が六枚輪生し、中程は四枚、最上部は二枚となっています。このうち四枚や六枚のものは、托葉が葉のように変化し、偽輪生したもので、本葉であれば葉腋から枝や花序を発生させます。つまり葉の腋から枝が出ている方向にある葉とそれに対生する葉が本葉で、それ以外は托葉の変化したものなのです。ツルの茎は四角形で水分や養分の通る維管束が発達しており、その角には下向きにカギ状の細かい刺(とげ)があり、これによって他の物に頼りながら直立します。九月頃にツルの枝先や葉腋から集散花序を出し、小さな淡黄緑色の五弁花をつけ、晩秋には果実が黒く熟し、軟らかい果肉の中に種子が一つ入っています。茜染め原料とされる根は乾燥すると赤黄色から橙色となり、赤い根であることからアカネと名づけられました。ちなみに属名のRubiaはラテン語のruber(赤)に由来しており、宝石のルビー(Ruby)も同じ語源です。茜色の色表現は染色ではアズキ(小豆)の種皮のような濃赤紫色~暗赤色ですが、一般的には夕焼けのような朱橙色をイメージする人が多いと思います。万葉集には「茜」を詠んだ歌が十三首あり、こうした影響もあるのかもしれません。万葉の人々は朝焼けや夕焼けの美しさを「茜さす」と形容し、多くの詩歌に詠みこんできました。しかしこれらはアカネには直接関係が無く、赤い根の色(茜色)などの印象から、日や昼、紫、照る、君にかかる枕詞として使われています。万葉の女流歌人、額田王(ぬかたのおおきみ)は「茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」と詠み、これを解説すると「夕焼けの茜に染まった紫野の御料場まで人目を忍んで来てしまいました。それなのに貴男は私に向かってそんなに袖を振っては、野守に見つからないでしょうか」という歌です。漢字の「茜」は、西の空を染める草、または染色利用が西から渡来した草であるとする説もあります。この漢字はもともと中国で草の名前として使われていたもので、当時の日本では「セン」と表現されていました。これが日本では染色として用いられていたアカネの赤い根を表す訓読みとして表現されたのです。茜色は夕焼けの色やトンボの色が先ではなく、植物の名前が先にあったのです。▲アカネ茎葉と根(特徴的なツルと葉、根)MORINOTAYORI 4