ブックタイトル森林のたより 794号 2019年11月

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概要

森林のたより 794号 2019年11月

-巨大で気味が悪い、ナメクジ-【第340回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira6月上旬、岐阜県昆虫分布研究会(GKK)の幹事から採集会の案内が来た。日時は7月下旬、場所は高山市清見町にあるキャンプ場。広葉樹が繁茂し、周辺は草原のある絶好の採集地だ。しかし、その日は家の用事があり参加出来ない。この採集会には参加すれば、それなりの成果があるし、時には希少種や珍品が採れることもある。それにもう一つ。夜が楽しみなのだ。野外でお酒を飲みながら食べるバーベキューは格別の味。これを目的に参加する人もいる。私もその一人だったので、参加出来ないのが残念であった。しかし、参加者は年々少なくなってきた。高齢化が進み、若い人が少なくなったからである。今年も1ヶ月経過時点で参加者は5名だという。たった、これだけか。この責任の一端はGKKの会長である私にあると思った。会長が欠席だからである。そんな気がしたので、出席することにした。それでも参加者は7名だった。これは会長として力不足、人徳のなさが原因なのかと落胆した。当日午後6時、参加者全員がそろった。早速、虫採りと食事の準備だ。誘蛾灯を2箇所に設置した。次はバーベキューだ。炭火の上に置いた金網に肉、野菜などを並べる。実に手際がよい。そしてビールで乾杯。話題は虫の話。酒を飲んで、虫採りに行く。戻ってきて、また酒を飲む。しばらくはこの繰り返しであった。そのうちに皆が席について飲み始めた。××××その時ある人が、GKKはいつまで続くのかと言い出した。会員が少ないからである。しかし、私はそんなことはないと言った。若い人の入会が少しずつ増えていることと、今は会費未納者が少ないからである。と言って私が会計担当であった時の話しをした。当時は会費未納者が多かった。そこで、これら会員には会費を4年滞納すると退会になることを連絡した。ほとんどの人が納入した。それでも納入しない人もいた。その一人から電話があった。退会したいのだが4年分の会費12000円を半額にしてもらえないかという相談。年金暮らしで生活が苦しいからだという。私は迷った。しかし、会の規約があるので、それは出来ないと返事をした。その人はその額を納入して退会された。私は心が痛んだ。逆にこんな人もいた。何回催促しても返事がないのだ。結局、会費未納のまま退会。しかも、この人は誰もが羨む職業であるというから腹が立つ。「最低の人間だ」と皆は腹を立てていた。私は、前述した人に「そのまま、払わずにおけば」と教えてあげればよかったと悔やんだ。××××ライトトラップにはたくさん虫が集まってきた。しかし、駄物ばかりで貴重種はいない。このため、樹木を探すものや、池で水生昆虫を採るものもいた。突然、「何だ。これは!」とA氏の大きな声。巨大なナメクジであった。15cmもある大きな体。表皮は黒光りし、ぬるぬるしているので気味が悪い。これが木の幹で全く動かないのである。これを孫たちに見せれば驚くだろう。その顔を見たくてナメクジをポリカップに入れ始めた。しかし、止めた。家族の「きゃー、気持ち悪い!」と大騒ぎする姿が目に浮かんできたからである。寝るのはバンガローでごろ寝だ。しかし、寒くて眠れない。寝袋を持ってこなかったからである。時計を見ると午前3時。私は車の中でエアコンをつけて寝ることにした。バンガローを出て車へ。ところが、ここで災難。エンジンがかからないのである。寒さに耐えて、車の中で朝が来るのを▲巨大で気味が悪いナメクジまった。××××朝、再度エンジンをかけた。やはりかからない。ロードサービス会社へ連絡した。私は電話をかけるだけかと思っていたら大間違い。現場から指定の場所まで運ぶだけだという。あとはこちらで手配せよとのこと。そんな契約だったのかと腹を立てながら、どうにか自動車会社の手配が出来た。3時間後クレーン車が来た。しかし、大きすぎてキャンプ場の中へ入ることが出来ない。運転手は車を押して、ここまで移動するしかないという。しかし、曲がりくねった細い山道。うまくいきそうにない。困ってしまった。運転手は車のバッテリー等を点検したが異常が無いという。もう一度エンジンをかけるよう指示があった。しかし、駄目。かからないのである。すると運転手は、私からキーを受け取り自分でかけた。すると「ブブブーー」とあのけたたましい音。エンジンがかかったのである。まさか。夢では無いかと思った。原因はキーの電池が弱くなっていたことであった。運転手はキーを起動ボタンに近づけてエンジンをかけたのに対し、私は起動ボタンから離れた運転席。しかもキーはポケットの中に入れていたので、起動ボタンまで電波が届かなかったのである。言うなれば私のミス。それなのに、運転手は怒った顔もせず、しかも車を運搬していないのでお金はとれないという。私は礼金を渡そうとした。すると「そのお金でキーのバッテリーを買ってくださいよ」と言ってニコリと笑った。日焼けした黒い顔に白い歯。素晴らしい笑顔であった。虫は採れなかったが、忘れることの出来ない採集会であった。9 MORINOTAYORI