ブックタイトル森林のたより 796号 2020年01月

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森林のたより 796号 2020年01月

-熱中症で死亡?タマムシ-【第342回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira私の趣味は散歩。というより脚力の低下を防ぐためのトレーニングだ。もう10数年続けている。当初は歩く時間が1時間以上で、歩数が1万歩以上。これを週5日以上続けるのが目標であった。初めの頃は雨でも傘をさして出かけるなどして目標を達成していたが、歳とともに体力や気力が低下し、できなくなってきた。しかし、これでは駄目だと自分自身で気合いを入れ直して週3日以上歩くようにしている。歩くコースは二つ。各務原市の自宅にいるときは近くにある伊木山のふもとにある細い道。岐阜市にある職場の場合は長良川の堤防である。初めのころはただ歩くだけであったが、いつからか四季折々の風景、特に草木の花に目が向くようになってきた。花の形や色彩は種によって違うが、どの花もそれぞれの美しさがある。しかも、これらの花にはいろいろな虫が飛んできて蜜を吸い、結婚相手を探したり、時には喧嘩が起きたりする。その様子を見ているとなぜか心が和んでくる。また場所によって目にする昆虫も違う。伊木山ではカブトムシやセミ、カマキリなどの雑木林の昆虫が、長良川堤防ではトンボ、バッタ、チョウなどを見ることができる。これらを観察しながらの散歩は実に楽しい。それが数年前から夏の観察は休業状態。暑さが厳しいからである。35度以上の猛暑日が続くと、散歩する気が起きなくなってきたのである。このため、週3日どころか2週に1日くらいになってしまった。特に昨年(2019年)の夏。梅雨が明けた7月下旬からものすごい暑さとなり、後期高齢者の私にはこたえた。朝から体がだるくて、何もする気が起きないのである。こんな時、前月号で話したように町内の盆踊り大会があった。その時高齢のおばあさんが一生懸命踊っていた。盆踊りを生き甲斐にしているように映った。この姿に感動し、私も虫採りに集中しようと思った。昆虫調査が生き甲斐であるからである。その前に弱っている脚力を強くしなければ駄目だ。と気合いを入れなおして散歩を再開した。××××2019年8月12日、伊木山コースを歩いた。相変わらずうだるような暑さ。汗を拭きながら、ただ地面を歩くだけ。人家の密集地から伊木山のふもとへ来た。その時、地面に緑色に光るものが見えた。タマムシだった。仰向けにしたら足をわずかに動かしたので、死の直前だったのであろう。タマムシは大型で色が綺麗なので人気のある昆虫である。私も欲しくて仕方なかった。それを30年ほど前に1匹採集した。この時の喜びは今でも忘れられない。その後、各地で採集しているが、各務原市では初めてだったので、家に持ち帰ることにした。タマムシはいつ見ても綺麗な昆虫だ。何匹でも欲しい。まだいないかと地面を見ながら歩き始めた。××××少し歩くとアブラゼミ2匹、ニイニイゼミ1匹が死亡していた。これは熱中症だと思った。と言うのは数年前、この伊木山の登山道で25匹のアブラゼミの死骸を目にし、死因は熱中症だと勝手に決めたことを思い出したからである(本誌232号)。その後もアブラゼミ3匹とシロテンハナムグリ1匹が死亡していた。やはり熱中症だ。まだいるはずだ。この散歩コースで調べることにした。幸い昨日からお盆で8日間の休日だ。この間、毎日同じ道で死亡している虫を調べた。その結果、7日間で10種類。こんなにいたのかと驚いた。その数はアブラゼミが11匹、クマゼミが3匹、あとは1~2匹で合計23匹も死亡していたのである。わずか8日間でこれだけの数。やはり熱中症だと思った。しかし、この中にはカブトムシ、コクワガタ、スズメバチ、カマキリなど疑問視するものがいたが、これらも熱中症に含めた。嬉しかったのは再びタマムシがいたのである。しかも最後の日に。1匹目の時はたまたま落ちていただけで熱中症とは思わなかった。しかし、2匹目がいたので、タマムシも熱中症だとの思いが強くなった。それにしてもこの調査は、タマムシで始まりタマムシで終わった。これはタマムシが私を散歩させる気にさせたのだと▲熱中症で地面に落ちたタマムシ思った。××××調査をしているといろいろなセミの鳴き声が聞こえてくる。時には大合唱となりやかましいくらいだ。しかし、死亡虫はほとんどがアブラゼミで、あとはクマゼミ3匹とニイニイゼミが1匹のみだ。ミンミンゼミ、ツクツクボウシはあちこちで鳴いているけど、死虫は見られなかった。この2種のセミは暑さに強いからだと思った。しかし、前の伊木山調査ではミンミンゼミは死亡していたけどクマゼミは0匹だったので、そうだとは言えない。そうなるとミンミンゼミが暑さに強くなり、逆にクマゼミは弱くなったのではないか。こんな笑えるようなことを思ってしまった。しかし、ここに何匹のセミがいたのかはわかっていない。答えは出るはずがない。では、どうするか。こんなことを考えているうちに、頭が混乱し、どうでもいいやと投げやりになってしまった。このことを虫仲間に話したら、セミよりタマムシに興味を示した。しかし「2匹も死亡していたから熱中症だ」、「そんなのたまたまだよ」と二つに分かれた。いろいろ議論しているうちに「昆虫の世界は奥が深い。だから夢中になるのだ」が結論となった。11 MORINOTAYORI