ブックタイトル森林のたより 799号 2020年04月

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概要

森林のたより 799号 2020年04月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹甘茶と灌仏会1764月8日、美濃市の清泰寺で「灌仏会(かんぶつえ)」が執り行われていました。灌仏会とは花祭りとも呼ばれ、お釈迦様の誕生を祝う仏教行事です。花御堂(はなみどう)と呼ばれる様々な花で飾った小さな堂の中央に水盤を置き、その真ん中にお釈迦様の誕生像を安置します。そして水盤を甘茶(あまちゃ)で満たし、参拝者が真ん中の誕生像に柄杓で甘茶を3回灌水して祝うものです。これはインドのルンビニー園でお釈迦様が誕生された時、歓喜した竜が天から清浄な香油を注いでお釈迦様の産湯としたとか、甘露の雨を降らせて産湯にした、との伝説に基づいています。仏教が中国に伝わってから、大乗仏教徒が毎年旧暦の4月8日をお釈迦様の誕生された日として、立像を灌浴させて祝う儀式をするようになったとされます。日本では606年(推古十四年)に元興寺で行われたことが『日本書紀(720年)』に記されており、宮中では840年(承和七年)から灌仏会が恒例の行事となりました。古来、灌水には五種類の香水を用いていましたが、江戸時代から甘茶を用いるようになりました。甘茶は駆虫の薬効があるとして、煎液を墨にすり混ぜ「千早振る卯月八日は吉日よ神さけ虫を成敗ぞする」と記し、柱に貼り付けて虫封じとする習慣があります。ちなみに、花祭りと呼ぶようになったのも大正時代からで、主に浄土宗や浄土真宗のお寺に多いそうです。植物のアマチャ(Hydrangeaserrata var.thunbergii)は日本各地に自生するヤマアジサイの変種で、簡単に言えばヤマアジサイの甘みの強いタイプとも言えます。甘茶は8月頃に葉を摘み取って乾燥させ、水を噴霧してムシロなどをかぶせて蒸らし、一昼夜放置して発酵させた後、手揉みしながら乾燥貯蔵します。生の葉には甘味はありませんが、発酵により配糖体から遊離したフィロズルシンが含まれ、ショ糖の600~1000倍の甘味を呈します。この葉を煎じた甘茶は黄色で、渋味のタンニン物質は含みますが、苦み成分である茶素(Tein)は含んでいません。最近はアマチャの葉が抗マラリア活性成分や頭髪の毛芽活性成分を含むことも分かってきており、注目を集めています。ところで、製品として役に立たなくなることを、「お釈迦になる」「お釈迦にする」と言いますが、これは鋳物職人の隠語から出た言葉です。阿弥陀像を鋳るはずだったのに、誤って釈迦像を鋳てしまったことに由来し、江戸の訛りで「ひ」と「し」の発音が同じになるため、「火が強かった(しがつよかった)」と炙り過ぎで鈍った金物になった言い訳を、お釈迦様の誕生日「4月8日(しがつようか)」を掛けた洒落とされます。▲甘茶で満たされた水盤の中央にお釈迦様の誕生像があるMORINOTAYORI 4