ブックタイトル森林のたより 800号 2020年05月

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概要

森林のたより 800号 2020年05月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ギョウジャニンニク177高山市清見町のお寺の庭で、ギョウジャニンニクを見つけました。ギョウジャニンニク(Alliumvictorialis)はユリ科ネギ属の多年草で、深山の湿った広葉樹林内や渓谷沿いの礫地などに群生します。全草に強いニラ臭があり、若い茎葉と鱗茎は古くから山菜として好まれます。ギョウジャニンニクの名は、修験僧がこれを食すると滋養がつきすぎて修行にならないため、特に山ごもりの行者(修験僧)が食べることを禁じられたとする言い伝えからとか。またこれとは正反対に、山岳信仰修行中の行者がこの茎葉を食べ荒行に耐える体力と精力をつける秘草としたため行者大蒜と名づけられたとも言われます。群馬県の尾瀬沼では尾瀬蒜(おぜびる)、栃木県の日光二荒山では二荒蒜、京都比叡山では叡山大蒜とも呼ばれ、特に北海道ではアイヌネギとかエゾネギなどの名で親しまれています。ちなみにアイヌ語ではプクサもしくはキトと呼ばれました。自然条件下では繁殖力が低く、春先に強い日差しが差し込む湿地で、かつ六月以降は木陰となるような場所を好みます。有毒なスズラン(Convallaria keiskei)の葉に似ており、発生時期も同じですが、ギョウジャニンニクは地際の茎表面が赤くなるのが特徴です。タネから発芽して5年ほどは葉が一枚しか発生せず、葉が二枚にチオエーテル類も含むため、血圧の安定、視力の衰えを抑制する効果があります。更科源蔵の『コタン生物記Ⅰ』には、「流行病などがはやってくると、枕の中に入れたり、入り口や窓の所に下げて、病魔の鼻をねじりあげた」とあり、ネギ同様に猛烈なニラ臭で病魔祓いに用いました。他にも漁村などでは時化や濃霧で漁ができない時は、「流行病の神が来た」と言って、ギョウジャニンニクの茎葉を燃やしたそうです。▲5月に花を咲かせるギョウジャニンニクなるまでには6~7年、花が咲くまでには10年ほどかかります。六月には葉の間から花茎を伸ばして白い小花をつけ、七~八月に黒色のタネが熟します。採取する時は柔らかい若葉のみを摘み取って食します。茹でてお浸しや和え物、汁の実にすると、コクのある独特の風味を楽しめ、一度食べると忘れられません。昔は茎葉や鱗茎を一度茹でて、乾燥させて保存し、冬の食卓をかざる一品としました。山形県の羽黒山では「行者にんにく山伏漬」という特産品も販売されています。ギョウジャニンニクはニンニク同様、アリシンを豊富に含んでおり、抗菌作用やビタミンB1活性を持続させる効果があり、血小板凝集阻害活性のあるMORINOTAYORI 6