ブックタイトル森林のたより 801号 2020年06月

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概要

森林のたより 801号 2020年06月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹クスノキⅠ178初夏の晴れ間、18年前の2002年9月に岐阜市から各務原市に発生した山火事跡地に出掛けました。山の中を歩いていると、焼け焦げ跡のあるクスノキが小さな花を咲かせているのを見て、1995年1月17日の阪神・淡路大震災の火災で、幹が半分焼けても生育しているクスノキのことを思い出しました。クスノキ(Cinnamomum camphora)は、関東以南の暖地や四国、九州に分布する常緑広葉樹で、5~6月に新枝の葉腋に円錐花序をつけます。毎年、花が咲く頃になると、役目を終えた旧葉が落葉して新葉との交代劇が見られます。神社や公園、街路などでは、しばしば大木となって鬱蒼とした凹凸のある樹冠をつくっているのを見かけます。こうした大木についているたくさんの堅い葉は、風で揺れて葉の縁が擦れ合う音で、自動車などの音と干渉して街の騒音を打ち消すため、学校や病院など静かな環境が必要な場所に最適な樹種とされます。クスノキの見分けは長卵形な葉の形と、側脈が主脈から分かれる基部に小さな膨らみがあることで、この膨らみにダニを住まわせることでも有名です。葉の三行脈のつけ根(第一側脈の分岐点)にある一対の膨らみは、俗に「ダニ部屋」と呼ばれ、フシダニの一種が入りかけて、ゆっくりと確実に大木に成長します。このため、進み方は遅くても最終的には学問を大成させることを「樟の木学問」と言うそうで、反対に進み方は速いが結局は大成させないまま終わることを「梅の木学問」と言うそうです。さて、山火事跡地を一回りして植生の復帰状況を確認した私は、最初に出会ったクスノキを前に、「梅の木学問」の自分を恥じながら下山の途についたのです。▲小さな花を咲かせたクスノキ込める組織となっています。この膨らみは正式には「ドマティア」と呼ばれ、新葉が展開する最初のうちは小さな膨らみですが、フシダニが入るとドマティア内壁に細い白毛のようなものが生えてきて、ダニ部屋を大きくします。多分、クスノキとダニとは何かの共生関係にあるのでしょうが、今のところ両者の関係はわかっていません。葉の外見で見分けられない場合は、葉をもんで臭いを嗅いでみてください。独特な「樟脳」の香りがするので、クスノキだと「ピン」と来ます。木材も同じように強い芳香があり、かつては樟脳の原料として専売されていました。佐賀県の鳥栖、東脊振、大町等に見られるクスノキ林は、かつて樟脳を採るために植林されたものです。古くは江戸時代、蚊避けとして葉を焚いたり、防虫剤としてクスノキの材片を箪笥に入れたりしました。クスノキは数百年という歳月をMORINOTAYORI 4