ブックタイトル森林のたより 802号 2020年07月

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概要

森林のたより 802号 2020年07月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹クスノキⅡ179前回に引き続き、今回もクスノキの話をします。日本における樟脳生産の歴史は、江戸時代の元禄年間(1700年頃)に東南アジアを経て琉球(沖縄)から伝来し、明治時代に最盛期を迎えたのですが、1920年代に合成樟脳を製造する技術が開発され、徐々に衰退しました。樟脳からセルロイドを生産するのが盛んだった明治~昭和の始め頃は、日本専売公社の専売品とされるほどの産業で、当時は日本が世界一の生産量を誇り、昭和元年には佐賀県内だけで100トンもの樟脳を生産していました。樟脳はクスノキの根や枝を水蒸気蒸留などして得られ、防虫剤や医薬品、香料、防臭剤など多方面に利用されました。福岡県で天然樟脳を生産している会社によると、クスノキ原木20トンから一週間で約25?kgの樟脳が採れるそうです。樟脳と言えば、私は「カンフル注射」と呼ばれた薬を思い出します。樟脳には中枢神経を刺激し血管を収縮させる作用があり、これを昇華精製して得られる-dカンフルは心臓の働きを活発にして、血圧を上昇させる医薬品として利用されました。「トク○○エース」とか「メンソレー○○」といった製品には、「-dカンフル」と記されています。クスノキは長寿で成長が良く巨樹のヒノキへと変っていきました。比較的身近に見られるクスノキ利用は、お寺などで見られる木魚で、クスノキでつくった木魚はまろやかにこもった音を発する最上品とされ心に響き渡ります。他にも世界遺産である広島県宮島厳島神社の海中に建立された鳥居や、日本建築に用いる欄間で有名な富山県の井波彫刻などに利用されています。▲広島県宮島厳島神社の海中に建立された鳥居木になり、材質が滑らかで刃物の当たりが良く、逆目もたちづらく、加工が容易で防腐・防虫など耐久性が強いという特長があるため、古くは木彫仏に重宝されました。『日本書紀』巻十九には「欽明天皇十四年(553年)茅渟の海に浮かぶ樟木を得て、その材で彫刻した」という意味が記されています。おそらく当時、伝来した北魏あるいは南梁の仏像の中に、南方産の香木で彫られた木彫仏が含まれていたのではないでしょうか。百済から来た工人たちが、白檀などのいわゆる檀木に似た香木用材を日本で探すとしたら、クスノキを選ぶのは自然の成り行きです。飛鳥時代につくられた木彫仏の多くはクスノキでしたが、奈良時代に入ると仏像は金銅仏が主体となり、木彫仏の材質もヒノキ主体に変化しました。また、貴族文化を反映して伎楽面も広葉樹のクスノキやホオノキ、キリから、針葉MORINOTAYORI 4