ブックタイトル森林のたより 805号 2020年10月

ページ
10/18

このページは 森林のたより 805号 2020年10月 の電子ブックに掲載されている10ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 805号 2020年10月

-初めて見た卵、タニシ-【第351回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira新型コロナは子供たちにも大きな影響を及ぼした。我が家では孫のNちゃん。今年から1年生になる女の子だ。正月にはランドセルを背負って「おじいちゃん、今年から1年生だよ」。この嬉しそうな顔。そのしぐさが今でも目に浮かぶ。それがコロナのために2か月間閉校。Nちゃんのがっかりした顔。見るたびに心が痛んだ。5月下旬、ようやく初登校。背中には大きなランドセル。それに水筒や上靴入れ袋を肩にかけている。この小さな体で学校まで行けるのかと心配になった。しかし、元気がいい。集合場所まで駆けて行った。その嬉しさが、胸に伝わってきた。1年生になれば子供会や町内の行事に優先して参加できる。これが1年生の特権だ。それがすべて中止。がっかりしただろうと、また心が痛んだ。行事がないのでNちゃんは兄弟で公園へ遊びに行く。すると、近くの人からは冷たい目で見られる。結局家の中。孫たちが哀れに思えてきた。そこで親は気分転換をはかるため、コロナに影響の少ない場所へ連れていくことにした。その都度、私や女房にも声をかけてくれた。こんな機会はあと数年だと思い、喜んで出掛けた。最初の場所は三重県の熊野古道。馬越峠から天狗倉山を登るコースだ。××××孫たちが登山をするのは初めてである。このため、親は孫と家族全員の登山靴を買うことにした。しかし、私は購入しなかった。この程度の山ならば今の靴で十分だと思ったからである。馬越峠を目指して、石畳の道を歩き始めた。前日雨が降ったせいか道が滑る。孫たち、とくにNちゃんはうまく歩けるか心配になった。ところが心配無用。3人とも走るように登って行った。そのうちに、私と女房が遅れるようになった。滑って早く歩けないのである。馬越峠へ着いた。食事をして天狗倉山へ向かった。ここは道が狭くて急斜面の道。それでも孫たちは元気よく登って行った。頂上へようやく着いた。体はくたくた。展望台まで登る元気がなく、ただ登っただけだった。下り始めた。相変わらず孫たちは軽い足取り。私と女房は付いていけないので、先に行ってもらった。ところが足がだるいうえ、靴が滑るのである。しかも道端は低い草ばかりで、つかまるものがない。女房にも先に行ってもらった。しばらく気を付けて下りていたが、滑って転倒し腰を強打した。痛くて歩けなくなってしまった。這うようにして下りた。しかし、時間がかかるのでビニール袋を地面に敷き、その上に尻を乗せて、足でこいで下りた。無様な姿。情けなくなった。しばらくしたら年配のおばさんが下りてきた。服装からして山歩きのベテランみたいだ。ところが、これがお節介焼き。「その靴でここへ来たの。しかもストックも持っていない。無謀だわ。その方法で下りるしかないね」と皮肉交じりの言葉。1時間半以上遅れてようやく着いた。しかし、笑っているだけで、誰も遅れた事情を聞かなかった。あのおばちゃんが、私の情けない姿を話したのだろうと思った。ただ、女房が一言。「登山靴を買うから」××××2週間後の6月21日。この日は次女家族も含め、岩倉市自然生態園へ出かけた。園内の池でザリガニ釣りをするのが目的だ。孫のちびちゃんたちは5人。競ってザリガニを釣り始めた。しかし、池の周りはすごい人。場所を確保するのが大変だった。ザリガニ釣りにもコツがあるようで、5年生のY君は次々につり上げていた。しかし、他のものはたまにしか釣れなかった。そのうちに釣る人が少なくなってきた。すると次々と釣れ始めた。1年生のNちゃんも「おじいちゃん、また釣れたよ」と見せに来た。あまりにも釣れるので飽きてしまい、池の周りで虫をさがし始めた。すると、3年生のYちゃんが「あれは何虫の卵」と水中から出ている植物の茎についているものを指さした。淡いピンク色の小さな卵の塊であった。他の孫も集まってきて探したところ、あちこちにたくさんあった。私は初めて目にするもので、何かの卵だろうくらいしかわからなかった。孫たちには「帰ったら調べるよ」と返事をした。ザリガニはたくさん釣れて大きなバケツ2個に一杯。このうち大きなもの5匹だけ持ち帰った。この日も孫たちは大喜びであった。××××数日後、5年生のMちゃんから「おじいちゃん、あの卵わかった」と電話がかかってきた。「しまった」と思った。調べていなかったのである。すると「あれはタニシの卵だよ」と教えてくれた。Mちゃんは学校や図書館などで調べたらしい。この向学心。しかも5年生だ。私は恥ずかしくなった。ザリガニは2日後にすべて死亡した。これを猫の餌にしようと、庭に並べて▲ピンク色のタニシの卵おいた。すると翌日には食べられていた。ところが1匹だけ大きな前足が残っていたのである。硬くて噛み切れなかったようだ。その前足はそのままにしておいた。すると3日後に食べられた。足のくずだけが残っていたのである。あの硬い足までが食べ物。自然界には無駄がないことは知っていたが、このことを改めて痛感した。コロナのお陰で孫たちと楽しいひと時を過ごすことができた。しかし、コロナは悪病。孫たちのためにも早くおさまってほしいと思った。MORINOTAYORI 10