ブックタイトル森林のたより 807号 2020年12月

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概要

森林のたより 807号 2020年12月

活かす知恵とを森林人95●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまで岐阜県立森林文化アカデミー教授●嵯峨創平関係人口で都市と農山村の関係性はどう変わる?都市居住者は、農山村の美しい自然景観や新鮮な食材を喜ぶし、田舎の高齢者たちの人情に癒やされることも多いでしょう。でもそうした人情も自然の恵みも、実は地方の居住者たちが自然と対峙する中で培ってきたコミュニティの助け合いや自然管理の技術によって支えられています。1970年代以降の過疎集落の運営状況を整理した小田切徳美氏による「過疎化の4段階」:人口の空洞化→土地の空洞化→集落の空洞化の最終段階として、2000年代以降に見られる誇りの空洞化へと進むと、過疎集落は不可逆的な消滅への道をたどると警鐘を鳴らしています。関係人口の時代に求められる視点都市との交流や関係人口を受け入れる前提として、過疎化に悩む地方の人達の誇り(住み続ける意味)を支え、農地や里山林の維持管理の労力の確保、農林漁業を支える新たな仕組みづくりが不可欠です。関係人口の動きが発展する中で、こうした地方の現実を理解し危機感を共有する人口が増え、個人的な関係性の中で支援の関係づくり・仕組みづくりが進むことを願っています。関係人口とは2008年を境に日本の総人口が減少局面に入り、2010年代に気象災害等が引き続き起こる中で、「東北食べる通信」の高橋博之氏、「ソトコト」編集長の指出一正氏ら民間の有識者から「関係人口」という言葉が提唱されました。関係人口とは「自分でお気に入りの地域に週末ごとに通ったり、頻繁に通わなくても何らかの形でその地域を応援するような人たち」と解釈され、「観光人口以上、定住人口以下」とも位置づけられています。こうした関係人口拡大の背景には、1若者層ライフスタイルの多様化(人生複線化)、2SNSによる情報入手や関わり手段の高度化、3「関わり価値」が発生したことが指摘され、前出の指出氏は「若者は関係性を作ることにカネを払う時代」と表現しています。2019年に国交省が行った関係人口の量的把握のためのアンケート調査によれば、「三大都市圏の18歳以上居住者の約2割強(1080万人)が、日常生活圏・通勤圏等以外の特定の地域を訪問している」と推計されました。関係人口がもたらす効果総務省では2019年度から関係人口モデル事業(全国25団体)を開始しましたが、従来の移住促進施策とは異なり、「関係案内所」といわれる関わる機会の提供・空間があり・時間がある拠点づくりを重視した中間支援機能を整備しています。またオンラインを活用した緩やかなつながりも有効とされています。これらの受け入れ団体の概要や地域おこし協力隊(2018年度全国で5300人余)の活動内容をみると、ローカルの自然資源や地場産業を刷新し地域課題の解決にも貢献するようなローカルベンチャーやソーシャルビジネスと言われる起業活動の活発さが目を引きます。田舎の慣習や過去の政策に囚われず、軽やかな発想と新しいビジネススキルを用いて、農林漁業、食品加工業、ものづくり、伝統産業の継承、新たな観光スタイルなど、多様な事業が立ち上がっています。こうした元気な事業主に魅力を感じて、お気に入りの地域へ都会から繰り返し訪れるファンとしての関係人口は、お客さんの位置に止まらず、事業主に力を貸して古民家リノベや交流プログラムの運営、商品開発等に力を貸すこともあります。関係人口が従来の移住施策と決定的に異なるのは、総人口が減少する中で居住人口の奪い合いに陥る移住施策と一線を画して、都市と農山村を往復する一人の人材を幾つもの地域でシェアすることが可能な考え方に組み替えたことです。地方社会の厳しい現状ところで、都市と農山村の交流施策は過去に幾度も試みられてきましたが、長期的には人口の都市圏集中と地方の過疎化の傾向は止まっていません。2000年代には「交流人口」という言葉が盛んに使われ、80年代には「都市農村交流」などの施策も盛んに展開されました。それらの意味や反省点を振り返っておくことも無駄ではないでしょう。都市と農山村の自治体間が交流する場合、人口規模が大きく異なると小さな自治体の側には「もてなし疲れ」と言われる過重負担が起こりやすく、行政予算を原資とする交流事業の場合は、それらが民間事業や民間主体の実行委員会に移行できないと尻すぼみに終わることがあります。坂折棚田から笠置山を望むMORINOTAYORI 10