ブックタイトル森林のたより 807号 2020年12月

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概要

森林のたより 807号 2020年12月

-採った!、オリーブアナアキゾウムシ-【第353回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira「採った!」と心の中で叫ぶこの言葉。昆虫マニアなら誰しも経験しているであろう。稀種、珍品と呼ばれる珍しい種を採集した時だ。この時の喜びは何とも言えない。虫マニアだけが味わえる喜びであろう。私自身、何度も口にしているが、特に珍しい種については、いつ、どこで、どのような方法で採集したかをはっきり覚えている。それなのに今の私、昨日のことすら忘れてしまうのだから笑えてくる。笑い話をもう一つ。30数年前、友人の故N氏と某所へ採集に出かけた。その時「ばんざい、ばんざい」と大きな声が聞こえてきた。N氏であった。狙っていた蝶が採れたと喜んでいたのである。おそらく「採った!」と心の中で口にしたものの、あまりにも嬉しかったので、思わず大声で叫んだのであろう。今でも笑えてくる。私が「採った!」と喜んだ虫で多いのがゾウムシの仲間だ。象のような長い鼻(口吻)に魅せられ40年以上採り続けている。この間、何種もの珍しいゾウムシを採集している。その都度「採った!」と喜ぶ。時には1日に何回も口にしたこともある。そのうちに自分は「ゾウムシ採りの達人」ではないかと思うようになった。ところが、その達人もここ数年は「採った!」とは無縁。この言葉を忘れてしまいそうだ。それは岐阜県に生息しているゾウムシのほとんどを採ってしまったからである。それと目が悪くなったこと。5mmに満たない小さなものは顕微鏡が必要だ。しかし、顕微鏡に大写しにされた虫を見ても、なぜか「採った!」と感激するほどの喜びはない。やはり野外で採った時に口にする言葉だと思う。となると後期高齢者の私は、再び「採った!」と口にして喜ぶことはないだろう。体力、視力それに気力が低下していくので、前のように野山を駆け回ることができなくなるからだ。こんなことを思うと悲しくなってくる。しかし、そうではなかった。珍しい虫が現れたのである。××××その虫の名はオリーブアナアキゾウムシ。大きさが1.5cm前後で、体は分厚く頑強。顔から突き出ている太くて長い口(口吻)は象の鼻のようで、まさにゾウムシである。本種はイボタノキやネズミモチで見られるが、オリーブ栽培地では幹を加害する大害虫として知られている。しかし、オリーブのない岐阜県では、今までに8頭しか採れていない希少種である。このうち4頭は、私が採集している。これは自慢できるが、残念ながら、どのようにして採ったかは覚えていない。その後もその場所へ何度も出かけているが、20年経っても採ることができない。駄目だ。この虫は運次第だ。5頭目は運を待つことにした。しかし、なかなか訪れなかった。××××今年の8月中旬、その運がやってきた。発端は虫友であり飲み仲間のF氏からのメール。岐阜市にオリーブアナアキゾウムシがいるとの情報であった。そこは市内にある畑に植えられたオリーブの木。所有者のS氏に連絡し、案内してもらった。オリーブは3本あり、幹には1cm弱の穴や齧られ跡がたくさんあった。すぐに虫を探し始めた。しかし、いない。するとS氏は「これは今朝採ったものです」とビニール袋を渡された。中には羽化したばかりの奇麗なオリーブアナアキゾウムシが動き回っていた。15匹いた。本来なら大喜びするところだが、小喜び?であった。これだけいると希少種とは思えなかったからである。S氏によれば6月から発生し、8月中旬が特に多く、その後は少なくなったという。オリーブは10年前に植えたもので、現在は高さ8m、幹の太さ10cm位。この小さな木からたくさんの成虫が発生している。信じられなかった。帰宅後、5匹は標本にし、残りは飼うことにした。しかし、私は満足できなかった。自分で採ることが出来なかったからである。そこで9月中旬、再び出かけた。しかし、いない。S氏はここ3日間見ていないので無理ではとのことであった。それでも私はこの虫をしつこく探した。1時間後、胸が熱くなった。幹にある大きな穴(洞)から競うようにして3匹出てきたのである。すぐに捕まえた。「採った!」と心の中で叫んだ。嬉しかった。胸が熱くなった。やはり「採った!」は自分が採集した時に出てくる言葉だと思った。××××この日もS氏から13匹頂いた。この他にも何匹も駆除しているので60~70匹はいたのではないかと言われた。こんなにたくさんいた。もう珍品ではない。普通種ではないかと思ったら、熱が冷めてきた。それより、なぜここにいたのか。これが不思議だった。このゾウムシは飛騨や郡上地域などの山林で採れている。しかし、そんな遠方から直接来たとは思えない。なぜ、ここにいるのか。この謎解きに興味がわいてきた。そこで手始めに、オリーブと同じ仲間のキンモクセイを与えた。すると、これをかじり始めたのである。驚いた。ひょっとしたらキンモクセイが発生源ではないか。そうなると園芸害虫として問題になる。こんなおかしなことを思いながら、▲幹を齧っている成虫毎日成虫を眺めている。MORINOTAYORI 8