ブックタイトル森林のたより 809号 2021年2月

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概要

森林のたより 809号 2021年2月

-死番虫、シバンムシ-【第355回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraシバンムシ。漢字で書けば「死番虫」。不気味な虫に思えるが、どんな虫なのだろうか。今回はこの虫の話。シバンムシは、甲虫目シバンムシ科の仲間で日本には60数種が生息している。しかし、よく見られるのは10数種ほど。これらはともに4mm前後と小さく、家の中や庭先などで見られる。幼虫は、米ぬか、乾麺、煮干し、菓子類、油粕、唐辛子など乾いたものや、時には古い書籍やペットフードなども食べるという厄介な虫。昔から貯蔵食品の大害虫として知られている。この中で特に多いのがタバコシバンムシとジンサンシバンムシ。ともに年2回発生し、幼虫で冬を越す。しかも姿、形、大きさや加害方法もよく似ているので、種を見分けるには顕微鏡が必要だろう。しかし、私は肉眼だけで区別できるようになった。両種とも我が家に住みついていたため、何回も目にしていたからである。それが、今は度の強い老眼鏡がなければ見ることができない。その都度、眼鏡をかけたり外したり。実に面倒くさい。これは誰もがたどる道だとわかっているけど悲しくなる。私がこの虫を知ったのは30数年前。実家の物置の片隅に古ぼけた木箱があった。中にお経の本が入っていた。虫に食われてボロボロだった。そこに小さな虫がたくさんいた。初めて見る虫だったので調べた。ジンサンシバンムシであった。その数年後、同じ虫が自宅の軒先に吊るしておいたニンニクに発生した。「今度はニンニクに発生したのか」と思ったものの、食物が違うので念のため調べた。タバコシバンムシであった。それほどよく似ていたのである。その後、両種とも我が家の住人?となり、煮干し、乾燥椎茸、鰹節、お菓子で見られるようになった。ある時は雛人形にいたこともあった。しかし、虫嫌いの女房には言わなかった。大騒ぎして大変なことになることが分かっていたからである。幸い、女房はこの虫に気づくことなく料理をしていた。それが、最近これらの虫が家の中で見られなくなってきた。ひょっとしたら我が家にいるこの虫たちにも死の順番がきたのではないか。「死番虫」の3文字が目に浮かんできた。××××それから数年後の2年前、突然タバコシバンムシが大発生した。場所は鯉の餌袋の中。小さな虫が動き回っていた。その数、無数。とにかくすごい数であった。私は10数年前から金魚を飼っている。初めは観賞用であったが、そのうちに卵を産ませて育てる累代飼育を始めた。それが3年前にアライグマに襲われ、半数以上が餌食になってしまった。餌(鯉用の大きな粒状)は、そのままにし、飼育容器を整備した。10か月後の6月、また金魚を飼おうとこの餌袋を開けた。驚いた。中からものすごい数のタバコシバンムシが出てきたのである。女房や娘は「気味が悪い。早く処分して」。しかし、孫たちは「たくさんいる」と声をあげて楽しそうに見ていた。餌には成虫が出てきたと思われる小さな穴がたくさん見られた。どれにも2~4個あり、中には7個もあるものがあった。餌の中には成虫、蛹、幼虫がいた。この餌を成虫と一緒にカップで掬って与えた。すると金魚は競うようにして成虫まで食べてしまった。この虫は年に2回の発生だ。しかし、大発生は秋まで続いた。もしや3回、いやそれ以上発生しているのではないか。そんな気がしてきた。この餌袋は8kg入りの大袋。すでに半分以上は使っているが、今までに何匹が成虫になっただろう。この数が気になってきた。何万、何十万、いやそれ以上だろうと思ったものの、見当すらつかなかった。結局、すごい▲虫が出た後の無残な餌数だというのが結論。××××餌を与える。水上には丸い粒の餌と褐色の小さな虫がたくさん浮いている。これを金魚は喜んで食べる。これを見ている時、ふと思った。餌の中にいる虫の成分は動物性たんぱく質。虫のいない餌とは違うはずだ。むしろ虫が入れば栄養分が増えるのでプラスではないか。私自身、医者から栄養が偏らないバランスのとれた食事にしなさいと言われているからである。屁理屈かもしれないが、多くの人はこの虫が大発生すると嫌な顔をしていたが、むしろ笑顔になるべきではないかとも思った。それに「死番虫」。なぜこの名前がついたのか。気になっていたので調べた。これはヨーロッパに生息しているある虫の習性からだった。この虫の成虫は頭を木材の柱に打ち付け音をだして、雄と雌とが交信している。しかし、虫の姿が見えないのに不気味な音が聞こえるだけ。これが死神の持っている時計の秒読みの音に似ているからだという。私にはよく理解できなかったが、それよりジンサンシバンムシという名前だ。これは煙草の枝葉に発生するのが理由らしいが、何故ジンサンシバンムシなのか。ニンジンシバンムシの方が分かるのではないかと思った。首をかしげているうちに、これは日本名を付けるとき人参(にんじん)を“じんさん”と読んで付けたのではないか。そんなことを思い浮かべたら笑えてきた。今、シバンムシは餌袋の中。春になれば再び大集団となって姿を現すであろう。それが楽しみだ。MORINOTAYORI 10