ブックタイトル森林のたより 810号 2021年3月

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概要

森林のたより 810号 2021年3月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹セリ187「そろそろセリが採れるかも」と言いながら出かけた山の入り口で、小川をのぞき込むと青々としたセリが生えていました。セリ(Oenanthe javanica)は日本原産のセリ科の多年草で、北海道や本州、四国、九州など全国各地の山際の小川や湿地、水田のあぜ道、休耕田などに群生します。春の七草の代表でもある「セリ」の和名は、「競り合う」ように若葉を群生させて成長する様子が語源となっています。別名シロネグサ(白根草)と呼ばれるほど、白く細い根が大量に生えており、宮城県の仙台名物「せり鍋」では根の付いたセリが鍋の主役となっています。属名Oenantheはギリシャ語の「oinos(酒)とanthos(花)」が語源で、javanicaは「ジャワ島」を意味します。なお英語では、Japanese Parsley(日本のパセリ)と呼ばれます。根元の根生葉には長い葉柄があり、茎の上になるほど葉柄が短くなります。葉は小さな葉三枚を基本とした1回3出羽状複葉、もしくは2回3出羽状複葉が互生します。繁殖の主体は主にランナー(匐枝:ふくし)によっており、例えばイチゴの枝が伸びて新しい個体ができるように、ランナーを伸ばして繁殖し、茎の先端に花軸ができると成長が止まります。夏には花茎が伸びて先端に、白色の小花初めから直立する栽培種の「水ゼリ」に区別されます。5月頃には同じセリ科で、猛毒のドクゼリ(Cicuta virosa)(別名オオゼリ)が伸び始めるため、「五月のセリは食べるな」と混同を避ける格言もあるほどです。ドクゼリはセリ特有の香気を持たず、根茎が緑色で太く、節も多くタケノコ状になっています。全草にポリアセチレン系のシクトキシン(Cicutoxin)を含み、呼吸麻痺や痙攣、中毒死を引き起こします。▲栽培されたセリ(販売品)を多数つけた複散形花序をつくります。成長が一回止まると、脇芽が伸びはじめ増殖を繰り返すことで溝や湿地などに群生します。水に対する耐性が強いため水中でも生育することができ、また背の高いヨシ(Phragmites australis)が茂るような薄暗い環境では、高さ2mに達することもあります。全草にある特有の香り成分は、カンフェンやβ?ピネン、ミリスチン、フタル酸ジエチルエステル、ポリアセチレン化合物です。これらの成分が味覚神経を刺激し、胃液の分泌を高め、食欲を増進させるとともに、発汗や保温作用があり風邪や冷え性に効果的とされます。他にも冷え性には生葉を刻み入浴剤とし、しもやけには生葉の絞り汁を患部に塗布し、解熱や神経痛には夏の開花期に採取した全草を煎じて服用します。流通しているセリは見かけと生育地によって、地面をはって成長し直立する野生種の「田ゼリ」と、MORINOTAYORI 4