ブックタイトル森林のたより 810号 2021年3月

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概要

森林のたより 810号 2021年3月

活かす知恵とを森林人98●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまで岐阜県立森林文化アカデミー教授●横井秀一真の森林技術者を目指そう人が行動するとき、結果を予見しています。ほとんどの場合、実現したい結果や望ましい結果を想定して、「こうすれば、そうなるはずだ」とか「こうなりたいから、そうする」と考えて行動しているはずです。これは、日常生活でも仕事でも変わりません。技術者が技術を提供するときも同じです。ここで二つの問いかけをします。一つめ、「望む結果が具体的に見えていますか」。二つめ、「やろうとしていることで、本当にその結果が得られますか」。技術者であれば、この二つに自信をもって「はい」と答えられるはずです。ただ、それが根拠のない自信であってはなりません。そこには、エビデンス(証拠・根拠)が必要です。エビデンスに基づく技術を提供できるからこそ、プロの技術者と呼べるのです。私たちは、これまでの経験や研究によって、多くのエビデンスとなり得る情報を持っています。足りないところは、これからの研究によって補われるでしょう。それは、研修や教育を通じて学ぶこともできます。それを学び、身につけ、活用するのは技術者です。技術者とその卵たちのこれからを期待します。右の写真を見てください。皆さんは、この森林をどう評価しますか奥。(稜線)と手前の常緑針葉樹はスギ、中腹の針葉樹はカラマツ、それ以外は落葉広葉樹という、パッチ状の針広混交林です。樹種構成が多様だと言えます。各林分の境界が直線的ではなく、景観も優れていると思います。目指すべき森林の姿と考えた人もいることでしょう。意図してこの森林をつくりあげたのなら、その森林技術者はたいしたものです。しかし、残念ながらそうではありません。この森林は、造林の失敗の結果です。自然の回復力がすごかっただけで、技術者としては恥ずべきことなのですで。は、どんな失敗か。もう気づかれた方がいるかもしれませんね。そう、これは雪圧害による不成績造林地なのです。この場所は、飛騨の標高千メートルくらいのところです。当然、多雪地です。植栽したスギやカラマツは、雪で潰されてしまいます。運良く成木にまで育つ木もありますが、途中で枯れてしまう木もあります。植栽木が枯れた場所には、もともとそこで育とうとしていた広葉樹が育ちました。この森林は、こうしてできた混交林だと考えられます。この事例は結果オーライです。でも、造林に失敗したことは事実です。技術者であれば、そのことから目をそらしてはいけません。何も、この山を担当した技術者を責めるつもりはありません。すでに活躍されている技術者に、あるいはこれから技術者になろうとする人たちに、こうした事例を反面教師として、技術者のあるべき姿を考えてほしいと思っているだけです。雪が多く積もれば、埋もれた苗木は倒れます。幹に柔軟性がなければ折れるかもしれません。それが毎年くり返されれば、植栽木はまともには育ちません。育ったとしても、幹に曲がりができて商品価値は低くなるでしょう。こうしたことは、事前に予見できたはずです。わかっていて造林したのなら、倫理観に欠ける行為です。知らなかったのなら、技量が低かったと言わざるを得ません。どちらも、真の技術者と呼べる姿ではありません。MORINOTAYORI5