ブックタイトル森林のたより 811号 2021年4月

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概要

森林のたより 811号 2021年4月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ヒュウガミズキ188春らしい暖かな日、山沿いで花穂を揺らすヒュウガミズキを見つけました。ヒュウガミズキ(Corylopsis pauciflora)はマンサク科トサミズキ属の落葉低木で、4月頃に薄黄色の花を2~3個ずつ房状に咲かせます。属名のCorylopsisは花の形が兜に似ているため、ギリシャ語の「corys(兜)とopsis(似ている)」の造語で、種小名のpaucifloraは「少数の花」、つまりトサミズキよりも花が少ないことを意味しています。日本で見られるトサミズキ属には、ヒュウガミズキとトサミズキ、コウヤミズキ、キリシマミズキがあり、いずれの種も蛇紋岩や石灰岩などの痩せ地を好みます。日向、土佐、高野、霧島と、樹種名が自生地の地名を表すように思われがちですが、そうとは限らないようです。4種の見分けは、ヒュウガミズキは花数が1~3個と少なく、トサミズキは7~10個の花が垂れ下がります。トサミズキはコウヤミズキに似ていますが、花の葯が紅色で葉の裏には毛があります。コウヤミズキの葯は紫色で、葉の裏には毛がありません。またキリシマミズキは雄しべが花弁よりも短いため見分けられます。花弁は淡黄色~黄緑色の色合いが絶妙で、茶花としても人気があります。俳人で医学博士であった水原秋桜子(しゅうおうし:1892~1981年)は「土佐みずき山茱萸(サンシュ)も咲きて黄を競ふ」と詠んだように、多く自生していたため日向ミズキとなったとも言われます。他にも愛媛県の伊予地方を指すイヨミズキ(伊予水木)の名もあります。最後に、樹種名に「ミズキ」の名がありますが、植物分類上はミズキ類ではなくマンサクの仲間であり、何とも不思議な樹木なのです。▲房状の花をたくさん咲かせるヒュウガミズキに、トサミズキやヒュウガミズキは春の季語として数多く詠まれています。これらは江戸時代から観賞用に栽培が盛んになり、庭園だけでなく、根がよく張るため斜面の土留めとして多用されました。この仲間は海外でも人気が高く、1863年にVeitchという人が幕末の日本からイギリスに導入し、ヨーロッパ各地で広く栽培されています。ヒュウガミズキは本州中部や近畿の日本海側の石礫地などに分布します。ヒュウガミズキはトサミズキなどに比べて、花数が少なく小さいため、「姫ミズキ」が訛ったとか。昔、日向の国(宮崎県)に多く植えられた経緯があるからとか。岐阜県山県市出身とも言われる安土桃山時代の武将、明智日向守光秀の所領地丹波地方(京都北部)MORINOTAYORI 4