ブックタイトル森林のたより 812号 2021年5月

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概要

森林のたより 812号 2021年5月

-気分転換旅行、カモシカ-【第358回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohiraコロナで自粛、自粛の連続で、窮屈な世の中となった。年金生活の私でさえ感じるのだから、我が家のちびちゃんたち(孫たち)はそれ以上だろう。外で遊べないので、体にストレス(マグマ)が溜まっていく。それが大きくなって噴火する。兄妹喧嘩だ。噴火原因はちょっとしたこと。5年生の兄ちゃんが3年生の妹をいじめる。その妹は腹いせに1年生のNちゃんへ当たる。ここで大喧嘩となる。そして、最後はNちゃんが大泣きして噴火は収まる。これが噴火のパターンだ。これでは駄目だ。家族でどこかへ出かけて気分転換をしなければと親たち。考えたのが子供たちの大好きな東山動物園見学だ。7日後に出かけることにした。しかし、岐阜県はその日まで特別緊急事態宣言が出ていて、県外への移動は禁止。止めようかと思ったが、次の日が解除日。「一日前だからいいだろう」と迷うことなくその日にした。でも、コロナは怖い。東山動物園は人が多く集まるので、遠いけど豊橋動物園にした。その日が来た。当日子供たちが急がすので早く出た。開園30分前に着いた。驚いた。駐車場が半分以上埋まっていたのだ。ほとんどが子供づれの家族。我が家と同じ、気分転換旅行なのだなーと思った。××××門が開いた。子供たちは大喜びで走り出し、いろいろな動物を見て回った。人気のあるのは大型動物。トラ、ゾウ、キリン、カバ、カンガルーなどを楽しそうに見ていた。しかし、日本にいるタヌキ、キツネ、シカ、サルなどは人気がない。ほとんど素通りだった。なぜだろうと思いながら見ていたら、この中に二ホンカモシカ(以下、カモシカ)がいた。私は足を止めた。久しぶりに見るカモシカ。体が熱くなった。というのは、私が県の研究機関にいるとき、カモシカ調査をした時のことを思い出したからである。嬉しかったこと、悔しかったこと、悲しかったこと、楽しかったことなどたくさんあった。しかし、この思い出も40数年前のこと。月日の経過とともに、体の中でマグマとなって眠ってしまった。それが再び噴火したのである。カモシカは絶滅が心配されるほどの貴重な動物で、国の特別天然記念物に指定されている。それが昭和40年頃から植栽されたスギやヒノキの苗木がカモシカに食べられるようになり、大きな問題となった。そこで、県はカモシカ被害の実態調査を始めた。私も調査の一員として参加した。広い山林へ十数人が入り、カモシカの姿、糞、食害した痕跡などを調べた。きつい調査であった。しかし、夜は楽しかった。疲れを癒すため皆と飲んだ宿の酒。おいしかった。翌日の調査のエネルギーとなった。××××カモシカは国の特別天然記念物。手を出すとひどい目にあう。その事例をいくつか紹介しよう。某県では、カモシカが水路に落ちて死にそうだったので、役場職員と住民が助けた。しかし、カモシカは獲っていけない動物なので処罰の対象となった。ところが、死ぬのを見届けてから獲れば罪にならないというから、おかしな話だ。また、ある村では死にかけのカモシカが道で倒れていた。どうせ死ぬのだからと、役場の職員や住民がこの肉を食べた。その死骸は土中に埋め、県へ報告した。ところがそのカモシカは銃で撃たれたのではないかと、県へ問い合わせがあった。そこで、カモシカを取り出して調べることになった。しかし、カモシカはいない。これに関わった職員は転勤や降格処分を受けたという。私自身にもある。詳細は省略するが、スギ苗木に薬剤を塗布し、これをカモシカに与えた。カモシカは食べないだろう思ったからである。ところが翌日死亡。新聞、テレビで報道され、大きな問題となった。直属の上司である科長が県庁へ呼び出された。当然処分があるだろうと覚悟した。翌日科長は言った。「君は関係ない。何も言うな」。科長が責任をとったのである。普段は厳しい科長だったが、この時から根は優しい人なんだと親しみがわいてきた。今は亡き科長。その顔が目に浮かんでくる。××××本来カモシカは標高の高い山岳地帯に生息している動物である。低い山へ降りてきても餌がなくなれば生まれ故郷へ帰るはずだ。それが県下全域に分布を広げ、今では岐阜市周辺にも多数生息している。近年温暖化の影響で南方系の動物や植物が北へ北へと分布を広げている。同じように、カモシカは餌の豊富な山からへ山へ移動し、住みかを広げているのではないか。そんな気がする。そうなるとタヌキやキツネと同じ普通の動物。国の特別天然記念物の指定から外してもよいのではないか。そうなればカモシカの肉が食べられるかもしれない。どんな味だろうと思ってしまった。相変わらずちびちゃんたちは園内を駆け回り、好きな動物を何回も見ていた。5時閉園。ちびちゃんたちは大満足。体のマグマもなくなったであろう。さすがに私は疲れたけど、若かりし頃の自分を思い出し、懐かしくなった。楽しい気分転換旅行であった。7 MORINOTAYORI