ブックタイトル森林のたより 814号 2021年7月

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概要

森林のたより 814号 2021年7月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹アカメガシワ191「これは雄株ですか」、7月の樹木観察で花を咲かせたアカメガシワを前に聞かれました。アカメガシワ(Mallotus japonicus)は本州以南に分布する落葉高木で、6~7月に若い枝の先に円錐花序をつけ、花弁のない黄緑色の小さな花を密生させます。雄株と雌株に分かれる雌雄異株で、雄株に咲く雄花は多数の雄しべが伸びて目立ちますが、雌株に咲く雌花は雌しべのみの状態です。9~10月には雌株のみが紫黒色の光沢のある種子をつけ、これを狙ってキジバトなど野鳥が訪れます。種子は休眠性が高く、そのまま播いても発芽し難いのですが、一度高温環境にさらせば発芽率は飛躍的に高まります。温度変化の少ない森林内に落下した種子は長期間休眠しますが、伐採や山林火災に遭遇すると急速に芽生える先駆植物の代表なのです。春先の新芽と稚葉は毛が密生した鮮やかな紅色で、これがアカメと名がつく由来です。またカシワの名はカシワ(Quercusdentata)のように、葉を食べ物の器として神前にお供えしたり、団子を包んで蒸したことに由来します。地方名でゴサイバ(五菜葉)、サイモリバ(菜盛葉)、メシモリナ(飯盛菜)、ミソモリバ(味噌盛葉)とも呼ばれました。葉は互生し、赤色を帯びた長い葉柄と3本の葉脈、基部に2つの腺点があるのが特徴です。苦味質のベルゲニン、ルチンなどが含まれ、ベルゲニンには胃液分泌抑制作用と抗潰瘍作用が認められ、ルチンは胆汁分泌を促進するとされます。しかし冬に採取した樹皮は、時にアレルギー症状を発することもあり、取り扱いが難しい薬木とされます。今では見向きもされないアカメガシワですが、器として、染料として、薬木として有用な樹木であったのです。▲アカメガシワ葉は樹皮とともに染料にも利用され、アイで藍下染めした繊維をアカメガシワの葉と樹皮で染め重ねると純黒色に染まります。葉や樹皮、種子で黒く染めた和紙は「比佐木(久木)紙」と呼ばれ、正倉院にも所蔵されています。樹皮は薬用にもなり、中国では野梧桐と称し樹皮を消炎鎮痛薬や胃酸過多、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胆石などに利用しています。日本でも整腸薬の生薬として、第13改正日本薬局方にアカメガシワの樹皮が加えられ、樹皮のエキス製剤が市販されています。古くから民間薬で、「切らずに治す腫れ物薬」として樹皮や葉を汗疹や皮膚病、神経痛に用いました。特に樹皮にはMORINOTAYORI 6