ブックタイトル森林のたより 814号 2021年7月

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概要

森林のたより 814号 2021年7月

-百々ヶ峰登山、NIクワガタ-【第360回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira人間誰しも歳をとると、体力が低下し、物忘れ、気力が萎えるなど老人特有の症状が出てくる。私自身70を過ぎたころから、これに近い症状が出るようになった。女房に「俺の眼鏡しらないか」。「あんたボケたの。かけているじゃない」。頭にあげていたのである。このようなことがよく起こるようになった。しかし、これらは笑い話で済む。困ったのは虫採り。補虫網を振っても逃げられ、競って採りあえばいつも負けるのである。原因は高齢による脚力の低下。足が疲れるからである。これでは駄目だ。足腰を強くしなければ。そこで前から続けていた散歩を週3回から5回にし、歩く時間も30分増やして1時間半以上にした。これを3年続けている。この効果が出てきたのか、前より足が軽くなったような気がしてきた。今年もゴールデンウイークが来た。しかし、コロナの影響で外出は自粛。予定していた家族旅行は断念。こんな時、「子供たちも家の中の生活に飽きてきたので、気分転換のため山登りに行きたい。どこがいい」と娘。「岐阜の百々ケ峰」と私。ここは岐阜市にある山では一番高く、市内から遠方の山々まで一望できるからである。それと、かつてここで珍しいものを採集して「採った!」と胸を熱くした思い出の場所だったからである。××××令和3年5月3日。家族7人で出かけた。外出自粛の影響で登山者は少ないだろうと思っているうちに、駐車場へ着いた。ところがどの駐車場も満車。空くのを待っている車が何台もある。子供たちが楽しみにしているので止めるわけにはいかない。悪いと思いつつも自動車道に違法駐車をして歩き始めた。登山道はかつての自動車道でアスファルト舗装の道。ここを登山スタイルの人がぞろぞろ歩いている。異様な光景に映った。このほか体を鍛えるため走っている人や、学校やスポーツクラブの生徒が駆け抜けていく。時には体が接触することもある。しかも、半数近くの人はマスクをしていない。コロナは大丈夫か。こんなことを思ってしまった。子供たちは元気がいい。3人で競うように走って上り、途中で戻ってくる。これをくり返しているうちに、物足りなくなったのだろう。「山道から登りたい」と言い出した。そこで予定を変更して権現山へ行き、ここを下りて百々ケ峰に向かうことにした。やはり山道を歩くのは気持ちがいい。チョウ、トンボ、ハチなどの昆虫やトカゲ、ヘビを見ることができ、子供たちの目は輝いていた。××××ある所から急な坂道になった。見上げても頂上が見えない。とても子供たちにはついていけない。やはり歳だと思い、ゆっくり登ることにした。道は丸太の階段だったので、数えながら登っていった。100段を過ぎたころ子供たちが下りてきて「おじいちゃん、大丈夫」。心配だから見に来たという。皆には悪いと思いながらゆっくり登り、ようやく頂上に着いた。階段は187段であった。ここを登るのに20分もかかってしまった。少し休んで出発。今度は下り坂だ。上りに比べ足が軽い。百々ケ峰登山口へ着いた。百々ケ峰は権現山に比べ距離が短く傾斜が緩やかなので、皆と一緒に頂上に着いた。頂上は遠方の山々まではっきり見ることができ、素晴らしい眺めであった。家族全員登山を満喫した。帰りは下り道なので普通に歩けると思った。しかし、違った。登るよりきつかった。下り坂なので普通に歩くと前に倒れてしまう。このため、背中を後ろに倒すようにして歩いた。これが足に負担がかかったのだろう。足元がふらつきはじめた。「下で待っていて」と家族に言って、ゆっくり歩いた。しかし、つま先に力が入らず、よけいふらふらしてきた。これがずーと続いた。苦しかった。あと少しで山道の終わりのところで、足を滑らせて転倒。腰を強打し、立てなくなった。そのまま倒れていたら、近くにいた登山者が集まってきて「大変だ!救急車」、「連れはいないのか」と大騒ぎ。私は「大丈夫です。少し休めば歩けますから」と言っても「誰もが同じことを言う。それで亡くなった者もいる」と聞きもしない。そのうちに家族が来て、この事件?は一件落着。登山歴50年のこのみじめな姿。情けなかった。しかし、1番思い出に残る山登りとなった。××××数日後、4年生のIちゃんと2年生のNちゃんが「おじいちゃん、大丈夫。まだ足が痛い」と見舞ってくれた。そして「これ誕生日プレゼント」と言って、紙袋を二人で差し出した。中には色紙を細長く切断して、それを丸めてカブトムシとクワガタムシを作り、台紙に貼り付けた作品であった。おじいちゃんは虫が好きだからという。この優しい心。足の痛みは消えてしまった。「ありがとう。おじいちゃんの宝物として飾っておくよ。それでこの虫に名前をつけたよ。N IカブトムシとNNクワガタムシだよ」と言った。二人は自分の名前が付いたので大喜びであった。この笑顔が愛らし▲孫からのプレゼントく心が和んできた。7 MORINOTAYORI