ブックタイトル森林のたより 815号 2021年8月

ページ
7/20

このページは 森林のたより 815号 2021年8月 の電子ブックに掲載されている7ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 815号 2021年8月

-運しだい、コクゾウムシ-【第361回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira今回もコクゾウムシの話。と言うのはこの2年半で3回も登場するからである。ゾウムシ大好き人間の筆者が、なぜ今まで題材にしなかったのか。自分でも不思議に思えてくる。かつてコクゾウムシはコメの大害虫で、どこの家でも見られた。私自身、米袋や米びつで大発生しているのを何回も見ている。しかし、野外で見たり、採集したのはわずか17匹である。それがなぜ時々大発生するのか。不思議だった。昆虫図鑑や文献を調べても、はっきりしたことは書いてない。そのうちにコクゾウムシはどんな生活をしていて、いつ大発生するのか、自分の目で確かめたくなった。胸が熱くなり、マグマが活動を始めた。しかし、採ろうとするといない。これは、運しだい。運が良ければ手に入るのだ。その運を待つことにした。半年後、「空き家にこの虫が大発生したのですがーーー」と知人が訪ねてきた。コクゾウムシであった。「運が来た」と喜んだものの、すべて死亡してしまったとのこと。床上で死亡している残骸の写真を見せてくれた。がっかりした。それから4か月後の9月、今度は同じ職場のS氏の家で大発生。玄米の入っている袋を開けたら、中にはものすごい数のコクゾウムシがいたという。すぐにビニールシートの上で天日にさらしたところ数日でいなくなったとのこと。しかし、私がこれを聞いたのは5日後。今はまったく見ることができないという。また運に逃げられたと落胆した。しかし、そうではなかった。2週間後、「これプレゼント」と言ってS氏から瓶を渡された。中にはコクゾウムシがいた。S氏は私の気持ちを察し、採っていてくれたのである。コクゾウムシを見ているうちに、爆発寸前だったマグマが噴火し始めた。××××コクゾウムシは28匹いた。元気よく動いている。まず増やさなければならない。飼育瓶に玄米を半分くらい入れ、ここで飼育を始めた。はじめは玄米の上や容器の側面を上り下りしていたが、そのうちにいなくなってしまった。玄米の中へ潜り込んだのである。これを机の上に置き、常に観察できるようにした。と言っても姿は見ることができない。時々、数匹を目にするだけなのである。何日も姿を見せないと、死亡したのではと心配になり容器を逆さまにして確かめた。冬が来た。コクゾウムシの姿はまったく見られなくなった。春になり暖かくなった。3月下旬ころから活発に動き始めた。数は20匹以上。まだ増えてはいない。それが6月中旬にはたくさんのコクゾウムシ。玄米の上を動き回っているのである。「新成虫だ!」と胸が躍った。数は百匹以上。米粒の中には幼虫もいる。嬉しくなった。××××逆算すると3か月ほどで成虫になったことになる。このまま行くとまだまだ増える。さらに飼育容器や大きな密閉式プラスチック箱を増やし、新成虫を入れていった。2か月後の8月、新しい飼育容器には成虫はいなかったが、前の容器からは次々と発生してきた。それがいつまでも続くので、もしかしたらこの時期に発生している成虫は、前の親の子供が産んだ子供、つまり孫虫も混じっているのではないか。そんな気がしてきた。9月になると新しく増やした飼育容器からも発生し始め、11月にはものすごい数になった。こうなると虫だらけで、管理が大変だ。蓋をあけてもたもたしていると一斉に逃げ出す。観察中よく逃げられた。数は数百匹。しかし、この程度なら人目につかないので問題ない。それがある日、容器の蓋を閉め忘れた。翌朝、部屋中虫だらけ。床や壁を動きまわり、干してある衣類にもたくさん着いていた。「しまった!」。同時に家内の顔が目に浮かんできた。これを見ればどうなるか。結果はわかっているので必死に掃除機で吸い取り、雑巾で床や壁をふき取った。××××昆虫類は多くの生き物の餌食となっている。このため知恵を出して生き残り戦術をとっている。その一つがたくさん卵を産むこと。食べられても、食べられても、それに耐えられるくらいの卵を産んで子孫を残しているのだ。これをコクゾウムシで実感した。わずか28匹が2年後には数10万、いやそれ以上かも知れない。とにかくすごい数になったからである。どれくらいか。この数が気になったので、こんな計算をしてみた。最初は28匹。半数が雌として14匹。この雌が1匹200個の卵を産むと、次の世代は2800匹。このうち1,400匹が雌なので28万匹となる。同じように計算すると次の世代が280万匹となり、さらに次の世代になると2億8千万匹にもなる。これが繰り返されるのだから、とにかくものすごい数になる。大発生して当然だと思う。しかし、家屋で大発生するのは時々である。それがすぐにいなくなる。餌となるコメはほとんどの家庭にある。それにコクゾウムシは小さいので、どこからでも侵入できる。それなのに被害は起きない。何故か。このことに興味があるので、引き続き飼育を▲こんなにふえたこどもたち続けたいと思う。7 MORINOTAYORI