ブックタイトル森林のたより 816号 2021年9月

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概要

森林のたより 816号 2021年9月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹カラムシⅠ19320年ほど前、薬草の里として有名な春日村(現揖斐川町春日)へ向かうと、草むらで早朝から忙しく働く女性を見つけました。車を降りて何をされているのか尋ねると、織物用のカラムシを育てているとのこと。早速、畑におじゃましてカラムシを見ていると、一緒に行っていた息子がカラムシの葉裏につく毛虫を見つけました。「その毛虫はカラムシ虫と呼ばれるんですよ」と教えてもらっていたので、よく見るとフクラスズメではないですか。フクラスズメはスズメの名がありますが、スズメガの仲間ではなくヤガ科の蛾です。幼虫は細長い毛虫で、頭と腹脚が橙色か黒色、体側に黒と白の線、背中に白黒の細かい横縞模様があり、終齢幼虫になると全長7cmに達します。幼虫の見た目は派手で毒々しく、長い毛も生えているため、刺されるようにも見えますが触れても無害です。彼らは野鳥の捕食を回避する手段として、危険を感じると頭部を反らせて緑色の液体を吐き出しながら、頭部を激しく横に振り回します。一匹がこの動きを始めると、周辺にいた他の幼虫もこの振動を感知して同じように動き始め、それによってカラムシなどの植物全体が揺れ始めます。天敵である野鳥は、この不自然な植物の動きに驚いて逃げるのです。ともありますが、フクラスズメはカラムシやイラクサだけを食べ、人が育てた野菜は食害しないため田舎では害虫扱いされないのです。私がフクラスズメを目にした春日では、栽培植物と昆虫が当たり前のように共存する里山のゆとりを感じたのです。次回は食草のカラムシについて解説します。▲カラムシについていたフクラスズメの幼虫幼虫の食草はカラムシやイラクサなどイラクサ科の植物で、年によっては大発生して食草を茎だけの丸坊主にしてしまいます。夏と秋の年2回発生する成虫は、前翅長が3~4cmで、背中側と翅が黒褐色、体の腹側は黄白色で、全身に短い毛が密生し、全体的に地味な色合いをしています。成虫は熟した果物の発酵汁や樹液などを摂取し、森林地域だけでなく、人家周辺の灯火に飛来します。冬は成虫で越冬しますが、その越冬の姿がふっくらと丸まったスズメの姿に似ているとして、フクラスズメの名が付きました。幼虫の食草であるカラムシ(Boehmeria nipononivea)は全国各地で見られるイラクサ科カラムシ属の多年草で、草丈1~1・5mになります。葉は互生し、葉の裏面には白色綿毛が、茎や葉柄にも短毛が密生しています。都市部では毛虫を見ただけで、害虫と間違えられ駆除されるこMORINOTAYORI5