ブックタイトル森林のたより 817号 2021年10月

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概要

森林のたより 817号 2021年10月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹カラムシⅡ194前回に引き続きカラムシについてのお話です。イラクサ科のカラムシ(Boehmerianipononivea)は草丈1~1・5mになる多年草で、葉は互生し、葉の裏面には白色綿毛が、茎や葉柄にも短毛が密生します。よく似たものに変種のアオカラムシがあり、これらは葉の裏面に綿毛が少なく緑色をしています。カラムシは茎の上部に雌花序を、下部に雄花序をつけます。カラムシの仲間は不思議な生態を持ち、日照時間で雌雄がかわり、12~14時間で雌雄同株となります。研究によれば、日本に生息する多くの個体は無性繁殖する三倍体で、自然交配できる二倍体は意外に少ないとされます。カラムシの名の由来は茎を蒸して繊維を採る「茎蒸(からむし)、幹蒸(からむし)」とか。蒸してから乾燥させる「乾蒸(からむし)」とか。他にもカラムシのカラは「韓」、ムシは朝鮮語で苧麻(ちょま)を意味する「mosi」から転じたとする朝鮮語由来説は、アイヌ語イラクサを指す「mose」に通じると考えられています。中国では「紵麻または苧麻」と記され、『三国志』魏書東夷伝倭人条にも「紵麻」との記述があるそうで、zuma「ちゅま」と発音されます。カラムシは茎を蒸して皮を剥ぎ取り、その繊維で上質の織物を作りました。カラムシの布は上布(じょうふ)と称され、ま苧(お)ひき板の上で金属のカナゴで繊維だけを取り出します。繊維は一昼夜灰汁に浸け、水洗後に一週間雪上で日光と雪の反射で晒した後、繊維を束ねて陰干しすると一層白さが増します。糸づくりは「苧うみ」と呼ばれ、水に浸したり、口で湿り気を与えたりしながら撚りをかけます。繊維が水に強く、織物以外に船舶用ロープや漁網、消火ホースなどにも利用されました。▲上から見たカラムシた曝布と記して「さらしぬの」と呼ばれて、天平時代には「常陸曝布」が、平安時代には「宇治曝布」の文字が見られます。江戸時代に織物が豊富になっても、「越後上布、越後縮」は最高の品とされ、享保17(1732)年に京都で刊行された商品誌『万金産業袋』には「糸はみな苧麻なので上品も下品も着心地良く、汗をはじいてべとつかない。ことに上品はまことに寒中の雪で数千回も晒してから織るので、雪よりも白く氷よりも涼しい」と、夏用衣料として絶賛しています。「越後上布、越後縮」には福島県の会津地方や山形県の米沢・最上地方で産するカラムシを用い、蒸して織物原料に加工したものは「青苧」と呼ばれ、米沢藩では慶安4(1651)年に青苧役取立法を定めて専売としました。カラムシは畑で栽培すると茎が折れやすいため、周囲に風避けをしてお盆の頃に収穫し、水に浸けてから蒸して表皮を剥ぎ、MORINOTAYORI 6