ブックタイトル森林のたより 817号 2021年10月

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概要

森林のたより 817号 2021年10月

-こんなところに巣が、セグロアシナガバチ-【第363回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira私は年金生活者。だから時間に余裕がある。趣味の虫採りに明け暮れ、言うなれば虫採り三昧の日々であった。それが後期高齢者になったころから変わってきた。体力、特に脚力が弱くなってきたからである。虫仲間と採集に出かけても走り回ることができず、いつも負け組。それで一人でのんびり採集することが多くなった。それでも欲しい虫は採れない。視力が悪くなっているからだ。私の狙うのは小さな虫。普段かけている眼鏡ではよく見えないので、老眼鏡と代えなければならない。これが面倒くさい。以前ならこうしてでも採ったものだが、最近はその気にならない。「今更その虫を採っても」という気が起きてくるのだ。気力が萎えてきたのである。困ったことに、これが虫採り以外でも出てくるようになった。その一つが本誌のこの原稿。連載し始めたころは書くのが楽しく、1週間ほどで完成した。それが、今は「まだ10日間ある」、「明日から書こう」などと思っているうちに提出期限が近づき、あわてて机に向かうのが現状。これからが苦しい数日間。そのうちに「これで最終号にしよう。気が楽になるだろうな」などと思ってしまう。しかし、一方では「30年以上続けた連載を止めるのはさびしい。もう少し続けよう」という気が起きてくる。この繰り返しで本誌の原稿を書いているのである。おっと、おかしな話になってしまったが、雑談はここでストップ。これからも「気力が萎えていく病気」と闘いながら、この連載を続けていきますので、よろしく。××××今年はコロナの影響でほとんど採集に出かけていない。それで庭にいる昆虫の観察や飼っているメダカや金魚に餌を与える。これが日課となっている。これが楽しい。知らないことを目にし、驚いたり考えさせられたりすることがあるからである。庭の花にはたくさん虫が集まる。このことは知っていたが、私の狙っている虫ではないので興味がなかった。ところが毎日観察していると、よく集まる花と人気のない花があることを知った。特に多いのがオミナエシである。7月半ばから咲きはじめるが、すぐに多くの虫が集まる。特に多いのが蜂の仲間。一日中見ることができる。しかも咲いている期間が長いので虫たちにとっては神様のような花であろう。逆に花はきれいで人目を引くのに、ほとんど集まらないのもある。何故だろうとその花を調べたことがある。その途中、セミの抜け殻があった。まさか、なんでこんなところにと目を疑った。セミは木の根を食べて、幹へ登ってそこから飛び立つものと思っていたからである。それで他の草木も見て回った。驚いた。合計3匹のクマゼミの抜け殻があったのである。狭い庭の草木で育つクマゼミ。クマゼミは増えすぎて生存競争が厳しい。だから、こんなところまで来た。そんな気がした。××××セグロアシナガバチも常連だ。というより住みかにしている。あちこちに巣を造っているのだ。はじめは2階に造っていたので、よく目についた。ある日女房が刺され、腕がブクブクに膨れた。その腹いせが私のところへきた。「お父さん、ハチの巣はすぐにとって。孫が刺されると大変だから」。確かに子供だったら大変なので、見つけるとすぐに駆除した。そのうちに2階では見られなくなった。ところが次の年には場所を変え、1階の地面近くの壁で造っていた。近くを歩くと何匹も飛び立ち、襲ってくるのである。これはさらに危険だ。徹底的に取り除いた。これで来年はハチの巣の心配はないだろうと思った。その通りであった。ハチの巣はどこにも見られないのである。ある日、孫のY君が「おじいちゃん、ここにハチの巣があるよ」と教えてくれた。そこは家の前にある溝のブロック蓋の隙間であった。しかも、ハチの巣は下向きに造るが、この巣は上向きなのである(写真)。こんなところに巣を造る。自然界を生き抜くハチの知恵をまざまざと目にした。しかし、そのうちに親はいなくなってしまった。これは雨が降るたびに巣が濡れるので、親が放棄したのだろうと思った。××××今年の夏はすごく暑かった。猛暑日続きで、体がだるく何もする気が起きなかった。日課の庭観察も早朝に済ませ、あとはテレビで東京オリンピックを見た。閉会式の2日前の8月6日。久しぶりに昼間に庭を回った。少し歩くと汗が噴き出てくる。これだけ暑いと虫の数も少ない。今年生まれた金魚がいる水槽をみたら水草で覆われていた。取り除こうと手を入れたら「熱い」と思わず声が出た。水が湯のように熱くなっていたのである。金魚はすべて死亡していた。ショックだった。苦労して産ませた子供100匹くらいがいなくなってしまったのである。ところがメダカはすごく元気。餌をやると競うようにして食べるのである。メダカの生命力に感心した。コロナで心配されたオリンピックも無事終了。さあ、野外へ採集に出よう。と思うもののコロナで無理。しばらくはこの庭での虫観察を続けようと思っている。7 MORINOTAYORI