ブックタイトル森林のたより 818号 2021年11月

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森林のたより 818号 2021年11月

-自分へのおみやげ、ヒラタシデムシ-【第364回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira今年の7月、次女から8月に家族で北海道旅行を計画しているけど、一緒に行かない?と連絡があった。いつもだったら即OKだが、すぐには即答できなかった。コロナ禍で県外への旅行は自粛するよう通達が出ているからである。娘はコロナのことは頭にあったけど、どうしても行くという。それは共稼ぎなので夏季休暇のある8月しか家族旅行ができないことと、今まで親孝行らしいことをしてないから、その罪償いなのと笑って答えた。それに子供たちもおじいちゃんたちと一緒に行きたいと言っているよと付け加えた。このこの一言が効いた。急に嬉しくなり、「行くで、頼むわ」。しかし、この時期の旅行は政府の通達を無視して行くことになる。人はよく思わないであろう。それで、誰にも知らせず内緒で行くことにした。2週間後、娘から旅行概要について連絡があった。コロナが怖いから、行動はすべてレンタカー。だから道南地域だけ。人気のある観光地の見学は短い時間にし、その周辺を散策する。それと子供たちが希望しているので、馬に乗って散歩をしたり、川でカヌーをするなどであった。想像していた旅行とはかなり違う。どんな旅行になるか。心がうきうきしてきた。××××8月15日早朝、セントレア空港へ来た。驚いた。ものすごい人なのである。飛行機は満席。旅行自粛という政府の通達がむなしく思えた。あっという間に北海道着。本州は雨続きであったが、こちらは曇り。暑くないので旅行には最適だ。レンタカーであちこちを回った。観光地を離れると広い田畑が広がり、ところどころに農家がある。ほとんどが古びた平屋建てで、岐阜県の田舎とはずいぶん違うと思った。また日本海の海岸沿いの道路を走ると、廃墟が多く見られた。破棄された船もあった。地元住民は「昔は漁業で栄えたが、魚が捕れなくなったので、若い者はここを出ていく。いずれここも無くなるだろう」と言われた。その声に元気がなく心が痛んだ。このような光景は数か所で見られた。私は北海道へは3回来ているが、すべて観光地巡り。このような観光地から離れた北海道の田舎の姿を今になって知った。××××行動は車なので、予定地以外のところへも寄ることができた。その一つがある自然公園。ここを散策した。狭い草地に赤とんぼが多数いた。孫は「おじいちゃん、捕まえて」と言った。しかし、近づくとすぐに逃げられてしまう。すると、父親が「私はトンボとりの名人」だと言って、静止しているトンボに近づいた。そして目の前で指を回し、すぐに手で捕まえた。この方法で3匹捕まえたのだから驚いた。昔から、トンボを捕まえるには、目の前で指をぐるぐる回すという迷信?がある。私は信じていなかったが、もしや本当なのかと思ってしまった。娘がどうしても行きたいと言っていたのが、オホーツク海に突き出ている神威岬(かむいみさき)であった。しかし、朝から激しい雨。歩くのは無理なので登山口の駐車場まで行った。記念写真を撮るためだ。すると神風が吹いた。雨が止んだのである。登山道を歩いた。しばらくしたら灯台があった。日本で2番目にできた灯台だ。見るからに歴史を感じた。ここを過ぎればあと少しで神威岬だ。手すりのある細い歩道を歩いた。神威岬へ着いた。こんなところまで来たのかと感激した。その時、目の前の岩に虫がいた。ヒラタシデムシだった。すぐに捕まえビニール袋に入れた。それにしても草木のない岩山で生きているこの虫。昆虫類の生命力の強さを改めて知った。駐車場へ着いた。しばらくして雨が降り始めた。この運のよさ。これは娘の執念が神様に伝わり、その時間だけ雨を降らせなかった。そんな気がした。××××孫は6年生と3年生の女の子だ。何事にも興味を示したが、特に楽しみなのが馬に乗ることだという。その場所へ来た。馬に乗った。それぞれの馬には案内人がいて、裏山の細い山道を歩き始めた。孫たちは怖がる素振りを見せず、楽しそうであった。ところが私と女房。馬に乗ると体がぐらつき、操作がうまくできない。馬が走りだしたりした。案内人は無理だと判断し、私たち二人を最後にして、ゆっくりコースを回った。かなり遅れて無事到着。楽しいどころか苦痛の時間であった。案内人は「年配者に多い症状ですから心配ないですよ」。この言葉がむなしかった。孫が駆けつけ、こんな会話をした。「おじいちゃん、楽しかった」、「楽しかったよ」、「怖くなかった」、「全然」、「また行こうね」、「行く、行く」。孫ががっかりするので、本心が言えなかったのである。あっという間の5日間であった。帰宅後、スーツケースを開けたら、中には土産物が入っていない。いつもと違う旅行であった。しかし、私にはあった。神威岬で採ったヒラタシデムシだ。これは北海道だけに生息している少ない種で、私には何よりの御土産であった。▲ヒラタシデムシ7 MORINOTAYORI