ブックタイトル森林のたより　819号　2021年12月

概要

森林のたより　819号　2021年12月

岐阜県森林組合連合会のお仕事その3「事件は、現場で起きる？」■岐阜県森林組合連合会荻巣雅俊皆さんは、平成２７年に岐阜県揖斐川町谷汲で行われた全国育樹祭を覚えているでしょうか。今上天皇が皇太子殿下のとき史上初めて「間伐のお手入れ」をされました。皇太子殿下がスギの大木が倒れる瞬間に、感嘆のお声を漏らされたことは広く知られています。これには、今だからお話しできるエピソードがあります。皇太子殿下に間伐をしていただく要望は、開催が決まった平成２5年から宮内庁にお願いし調整を続けておりましたが、開催１００日前になっても、よい返事をいただくことができませんでした。皇太子殿下に、刃物を持っていただき、ヘルメットを被っていただくことは本当に難しい。最後のお願いとして、宮内庁の担当の方に、谷汲まで来ていただき、本番と同じ「間伐のお手入れ」を実際にご覧いただきました。本番と同じ高さ・直径のスギの大木の倒れるさま、寸分たがわず切り倒す技を見て、担当の方が「皇太子殿下にやっていただくべきである。」そういう趣旨の言葉を述べられたことを今でも覚えています。ほどなく、間伐OKのお許しがでました。多くの関係者のご尽力で「間伐のお手入れ」は、実現したと思いますが、このエピソードもその一つであったと思っています。木を伐るという所作は、日本人の心に響く何かがあるようです。前置きが長くなりましたが、県森林組合連合会（以下、県森連）には、木を伐るまでの段取りを仕事としている部署があります。森林整備部（以下、整備部）です。我が国の場合、木を伐採して搬出する場合、様々な手続きが、必要になってきます。主な項目だけでも、所有境界の確定、木の大きさ・太さ等の調査、作業する道の設計、行政への伐採届etc、これに行政等から補助を受ける場合は、計画書や申請書の作成等の事務が加わります。これら森林調査の様子を、ていねいにサポートする（仕事の一部を代替する）のが整備部の仕事です。これらの中でも、今後需要が高まると予想され、最もやっかいな仕事が、所有境界の確定です。四半世紀前に比べて「山の所有境界」がわからなくなったと誰もが口をそろえます。境界の確定は、森林簿や登記情報をもとに、森林所有者の立ち会いのもと境界を決めていきます。最近は、航空レーザー測量を活用して、樹種の違いや林齢の違いを判別できるようになり境界の根拠資料の精度が上がったと言われていますが、現場はそう簡単ではありません。デジタルデータを駆使し境界を想定した図面を現場で広げても、境界の杭を打つ場所はなかなか定まらないのが現状です。整備部の熟練担当者に言わせると、現場の木や石、先人が残した（素人ではわからない）目印を頼りに、立ち合いの森林所有者さんに境界を説明していくとのこと。熟練者ともなると山に入ると境界線が見えるというから驚きです。山の境界の鑑定は、デジタル情報を駆使する能力と業務経験を活かすアナログ的な能力の両方が必要なのです。現在、山の境界に詳しい地元の方が少なくなっていくことを考えると、森林経営管理制度の推進も含め持続的な森林経営をしていくためには、施業を行う森林技術者の確保・育成も必要ですが、「施業ができるように段取りができる能力」をもつ技術者の育成・確保も必要です。それを担うことのできる整備部の役割が、今後、益々重要になってきます。このため、県森連では整備部を中心に、これらの能力を評価できる免許・資格の取得にも力を入れています。現在、測量士、技術士、森林評価士、地籍総合技術監理者等のべ７３の免許・資格をのべ４７０名が取得しています。さらに整備部では、ドローンの撮影データから木材の収穫や収益を予想するモデル（３Dモデル）の研究や路網をパソコン上でシミュレーションして最適な線形を導き出す研究等ICTの活用も積極的に進めています。３Dモデル路網シミュレーション最後に、県の第四期森林づくり基本計画骨子案を見ると、森林経営計画認定面積や間伐実施面積等に野心的な目標数字が並んでいます。その目標達成に向け、中核的担い手として、日比野部長代理を中心に、最新技術とこれまでに培った経験・知識を組み合わせ、「事件は現場で起きている。（現場主義）」をモットーに、挑戦を続けてまいります。MORINOTAYORI 16