ブックタイトル森林のたより 819号 2021年12月

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概要

森林のたより 819号 2021年12月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹マンネンスギとヒカゲノカズラ196「これスギですか」郡上市白鳥町石徹白で尋ねられました。「それはマンネンスギで、冬でも清潔感ある緑色をしているため、昔は寿司ネタをより美味しそうに演出するためネタケースに入れられていたんだよ」と答えました。マンネンスギ(Lycopodiumdendroideum)はヒカゲノカズラ属の常緑多年生シダ植物で、学名は長らくLycopodiumobsurumが当てられていましたが、現在は上記の学名が使われています。日本では沖縄を除く各地のやや湿った落葉広葉樹林下に生育し、茎の主軸を地中に匍匐させ、直立茎(側茎)を地上に立ち上げて分岐します。和名の由来はスギに似て年中緑色である「万年杉」に由来し、外見から樹枝状になる「タチマンネンスギ」と、扇状になる「ウチワマンネンスギ」に区別されます。地域によってはカズラとか、マンネングサ(万年草)、タチヒカゲ(立日蔭)などの別名でも呼ばれます。属名にもなっているヒカゲノカズラ(Lycopodiun clavatun)は、沖縄以外の日本に広く分布し、茎は地上を這う匍匐枝とそこから直立する直立茎があり、所々で根を出して広がって群落を形成します。和名は「日陰葛」ですが、実際には日当たりが良い尾根筋や谷筋の鉱物質土壌が露出しているような場所を好んで珍しいことに、石徹白にはマンネンスギとヒカゲノカズラ、アスヒカズラの3種が混生する場所がありました。日当たりの良い山地の地上に生えるアスヒカズラ(Lycopodium complanatum)は、樹木のアスナロに似た側枝であることが和名の由来で、全国各地でレッドデータブックにも記載されるような存在なのです。▲左からアスヒカズラ、マンネンスギ、ヒカゲノカズラ生育します。日本のヒカゲノカズラは染色体数が2 n=68とされ、自然界には2倍体~4倍体まで存在し、林床など安定したところには2倍体、裸地や道路法面などの不安定なところには4倍体、そして中間部分には3倍体が混在するそうです。全草は「伸筋草、舒筋草、寛筋草」等と呼ばれ、筋肉の凝りや関節痛、捻挫に効果があります。胞子は石松子(せきしょうし)とかリポコジュームと呼ばれ、果樹園での受粉作業に用いる花粉の増量剤、防腐剤、線香花火、指紋の検出にも利用されました。ヒカゲノカズラ類は古生代のデボン紀からほとんど形を変えていないと考えられており、日本に自生するヒカゲノカズラ属はマンネンスギやヒカゲノカズラ、アスヒカズラ、ミズスギ、ヨウラクヒバなど約20種があります。MORINOTAYORI 6