ブックタイトル森林のたより 819号 2021年12月

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概要

森林のたより 819号 2021年12月

-ぎすちょん虫、キリギリス-【第365回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira7月2日、散歩中にキリギリスを見つけた。しかも、きれいな声で鳴くオスだ。チビちゃん(孫)たちにプレゼントしよう。喜ぶだろう。その笑顔が目に浮かぶ。しかし、近づくだけで逃げられてしまう。手でとるのは難しいので、捕虫網を取りに自宅へ戻った。これで再度挑戦。しかし、捕虫網でも採れない。すぐ藪の中へ逃げ込むのだ。しかし、昆虫採集を始めてから60数年、時には虫採り名人と言われていた私。キリギリスに馬鹿にされているようで、必死になって追いかけたが、やはり駄目。よく、虫仲間では狙った虫が採れた時は「運がよかった」と言う。自分はこの虫に「運がないのか」とあきらめかけた。しかし、そうではなかった。目の前へ飛び出してきたのである。すぐに捕虫網でゲット。成虫になったばかりのオスであった。さらにこの「運」は双子だったのか、数分後にもう一つの「運」。2匹目が採れたのである。しかし、キリギリスではなくよく似ているヤブキリのオスであった。この虫もきれいな声で鳴く。持ち帰ることにした。これを孫たちが観察すれば、この虫に興味がわいてくるだろう。そうなれば私のところへいろいろ聞きに来るので、孫と話す機会が増える。そんなことを思うと、私自身が嬉しくなってきた。▲キリギリスのオス××××私がキリギリスを知ったのは小学5,6年生のころ。母の田舎へ遊びに行ったとき、曾祖母が草の上にいる虫を指さして「ぎすちょん虫」がいると言った。イナゴより大きな虫が「ギースチョン、ギースチョン」と鳴いていた。この鳴き声があちこちから聞こえ、合唱のようであった。もう60年以上前のことであるが、このことははっきり覚えている。その後、この虫はキリギリスで「ギギギギー、チョン」と鳴くことを知った。ヤブキリを知ったのは10年後。林業試験場で仕事を始めたころだ。ある人から、この虫の名前を教えてくださいと相談があった。私は見るなり「キリギリス」と答えた。するとその人は「鳴き声が違うのです」と言われた。鳴き声は「ジージージージー」。確かに違う。調べてみたらヤブキリ。姿かたちは同じでも名前が違っていたのである。その後、種名判定は慎重に行うようにした。このお陰で新種を見つけて大喜びをしたこともある。しかし、少し前から小さなものは見づらくなった。目の老化だ。誰もがたどる道とは分かっていても、悲しくなる。こんなことを思いながら、チビちゃんと飼育を始めた。××××虫かごは100円ショップの小さな容器。ここに1匹ずつ入れた。餌はキュウリ、ナスなどの野菜と煮干し。これを孫たちが、毎日与えた。孫たちはコロナで外で遊べないので、虫かごの虫を時間をかけて観察していた。しばらくして小学4年のNちゃんが「キリギリスが鳴きだしたよ。翅と腹を震わせると音が出てくるけど、どうしてなの」。私は興味がでてきたのだと嬉しくなった。こんなこともあった。キリギリスが鳴かなくなったので、孫たちは、自分たちの好きなバナナ、カキ、ナシ、スイカ、ビスケットなどを与えたらしい。しかし、ナシを少し口にしただけで、元気がない。時期は8月中旬。私は寿命が来たのだと思った。屋外でもほとんど鳴いていないからである。そんな時、娘が「これはどうかな」とリンゴを与えた。すぐに飛びつき食べ始めた。しかも数日後には大きな声で鳴きだしたのである。孫たちは「キリギリスが生き返った」と喜んでいた。しかし、なぜリンゴを食べたら元気になったのか。私はこれが不思議だった。××××その後もキリギリスは鳴き続け10月になった。それでも元気に鳴いている。しかし、野外ではヤブキリが鳴いているだけ。なぜ、ここのキリギリスは長寿なのか。こんな疑問がわいてきた。ある日私は娘に「なぜ、ここのキリギリスは長生きしているのだろう」と話した。すると娘は「涼しいところで生活し、毎日餌がもらえるからじゃない」。私は唖然とした。言われてみればそのとおりなのである。このことに気付かなかった私。情けなくなった。夏の暑さはキリギリスにとって大敵。何日も続くと体力が消耗し、餌がとれず餓死したり、病気で死亡するものが出てくる。鳥やトカゲ、カエルなどの外敵の餌食になるし、大雨、洪水、渇水など天候異変で死亡するものもいるだろう。しかし、家はクーラーで涼しく、しかも食事つきの生活で、何の不安もない。このようなことで、野外のキリギリスはお盆が過ぎると殆どが死んでしまう。と私は思っている。しかし、我が家のキリギリスは長生きしても、狭い部屋に閉じ込められ窮屈な生活をしている。これで本当に幸せなのだろうか。こんなことを思う。今日は10月25日、キリギリス、ヤブキリとも元気である。この調子では12月になっても生きているかもしれない。しかし、原稿締め切り日は明日。残念だがここでストップとしよう。7 MORINOTAYORI