ブックタイトル森林のたより 820号 2022年1月

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概要

森林のたより 820号 2022年1月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹ナンテン197郡上市八幡町安久田、ここには水上勉の「郡上の南天」にもあるように、山の斜面に多くのナンテンが生えていました。ナンテン(Nandina domestica)は、茨城県以西の山野で見られるメギ科の常緑低木です。葉は三回奇数羽状複葉で、陰陽のいずれの地でも生育しますが、特に石灰岩地帯の半日陰地を好みます。昔は祝いごとの度、重箱に入れられた赤飯にナンテンの葉が載せられているのを目にしました。このナンテンの葉は単なる彩りでなく、葉に含まれる青酸の前駆物質ナンジニンが湯気で加水分解されて、微量のチアン水素を発生させるため腐敗防止に役立つのです。また、滅多に食べられなかった赤飯を食べ過ぎてお腹がきつくなったら、ナンテンの葉を噛んで吐き出すことができたとも言われます。ナンテンの葉は焼き魚など、食物の下に敷く掻敷(かいしき)に使ったり、お米を保存する米櫃(びつ)、鎧を保管する鎧櫃などに入れたり、生魚に中毒した時は解毒薬に、火傷やハチ刺されにも民間薬として利用されました。冬季に採取して天日乾燥させた果実は「南天実」と呼ばれます。果実にはドメスチンや、イソコリンなどのアルカロイドが含まれ、知覚および運動神経、呼吸中枢に作用して、鎮咳、咳痰に効能があります。果実には赤色、白色、淡い紫色などがありますが、シロミリ材なのです。また臨済宗相国寺派の別格本山、京都鹿苑寺(通称金閣寺)の茶室、夕佳亭には曲木で名高い「南天の床柱」があります。これはナンテンが「難を転じる」「災難を避ける」につながると考えられたからです。昔の豪邸でもナンテンの床柱が使われ、門口や戸口、鬼門に植えられ、不浄を清めるとして手洗い場の脇にも植えられました。最後にこのナンテンにあやかって、今年は難が転じることを願いたいと考えるのです。▲郡上市八幡町で飾られていた南天玉ナンテンもフジミナンテンも、赤いナンテンと同じ効能があるそうです。果実の中には二個の種子が入っており、冬になるとジョウビタキ(Phoenicurus auroreus)やヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis)がよくついばみます。しかしナンテンの果実には有毒なアルカロイドが含まれるため、鳥は少量しか食べず、何度もついばみに来るため、いろんな場所に種子が運ばれるのです。ナンテン材の利用を考えると、南天箸が食あたりなどの諸毒を消し、長寿を祈願するとして好まれます。しかし市販されている南天箸のほとんどが、別名ナンテンギリの名でも呼ばれる落葉高木のイイギMORINOTAYORI5