ブックタイトル森林のたより 821号 2022年2月

ページ
5/20

このページは 森林のたより 821号 2022年2月 の電子ブックに掲載されている5ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 821号 2022年2月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹アラカシ堅果198霜の降りた落ち葉の下に、まだ根を出していないアラカシのドングリを見つけました。ドングリは樹種によって発根パターンが異なり、落果するとすぐに根を出して越冬するコナラやミズナラ、クヌギなどと、落果して翌春までほとんど発根しないアラカシやシラカシなどに分けられます。私が見つけたアラカシも発根するのが遅いため、2月でも普通のドングリとして拾えたのです。ブナ科のアラカシ(Quercusglauca)は暖温帯を代表する常緑高木で、枝葉が粗く、葉がやや大きく鋸歯が粗い「粗」と、カタギ(堅い木)である「樫」から「アラカシ(粗樫)」になったとされます。別名アオガシとかクロガシ、ナラバガシとも呼ばれますが、学名の小種名glaucaも「灰青色の」という意味で、別名のアオガシ(青樫)と同じ意味なのです。アラカシの葉は長さ7~12cmほどで、先端から1/3ないし1/2ぐらいの部分が最も幅が広く、この部分から先端にかけて粗い鋸歯があります。葉の裏面は絹毛が密生しており、ロウ(蝋)物質を分泌するため灰白色で、そこをライターなどで炙るとロウが溶け出して緑色に変化します。また葉や樹皮には多量のタンニンを含むため、媒染剤やなめし皮剤に利用するほか、枝が丈夫なため奈良地方ではお正月のダンゴ焼きにアラカシの枝を使うそうです。少ないため薪炭材やパルプ用材にしか利用されないのが現実なのです。最後に長期間拾いやすいアラカシのドングリは、すりつぶして水に晒し、渋み成分のタンニンを取り除いて食用にされてきました。韓国のソウルなどのレストランで冬に出される「ムック、トットリム」はアラカシのドングリでできていることを思い出したのです。分布域は宮城県から沖縄までとカシ類の中でも最も分布範囲が広く、蓄積量も最も多い種とされます。一例として伊勢神宮の森林を見てみると、アラカシの蓄積が全カシ類の75%を占めているほどなのです。全国のアラカシの中で、最も幹周囲が大きい個体は、岐阜県揖斐川町春日美束にある「熊野神社のアラカシ(県指定天然記念物)」の650cmとされ、最も樹齢の高い個体は高知県土佐町田井上野上にある「観音堂のアラカシ(町指定天然記念物)」の600年とされます。「カシ」と言えば。一般に「道具の柄や船の櫨、木刀にはカシの木を使え」と言われますが、カシの中でも木刀はアカガシが良く、農具の柄にはイチイガシが一番良く、次いでアカガシ、シラカシが良いと言われ、アラカシはほとんど利用されません。アラカシは里山にも多く見られるものの、大径木が▲森で拾ったアラカシの堅果MORINOTAYORI5