ブックタイトル森林のたより 822号 2022年3月

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森林のたより 822号 2022年3月

活かす知恵とを森林人110●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまで山村に暮らす人々の証言を聞く岐阜県立森林文化アカデミー教授●嵯峨創平馬瀬川の小魚獲り聞き書きを通じて知るこうした山村文化のディテールやストーリーは大変興味ぶかく、私は往時の風景や人々の喜びや苦労を想像してみたりします。現代の高校生や都会から移住した若者達が聞き書きに魅力を感じる感性はどこから来るのか?私なりに解釈すると、次の3点があるように思います。1「山村という小さな世界の出来事に大きな世界の変化が反映している」ことを感じ取っている、2「人と自然が密接に繋がっていた時代の記憶が、未来の持続可能な社会をつくるヒント」として読み替えられる、3「人の言葉を注意深く聞き作品化する為に繰り返し読む時間が、聞き手の新たな創造力を生み出す」効果がある。過去の記憶は無用の長物なんかではなく、知恵の泉なのかもしれない。それは聞き手の受容力と想像力にかかっていると思います。聞き書きという手法があります。話し手の言葉を録音し、一字一句すべてを書き起こして、文章にまとめるというシンプルな手法ですが、民俗学や文化人類学では主要な研究方法として世界中で多様な記録が生み出されてきました。最近は日本の高校生達が森・川・海の名人達人から生活史や伝統的な生業の話を聞いて作品にまとめる「聞き書き甲子園」というプロジェクトが行政や企業の支援を受けて展開されています。この手法がビジネスシーンやまちづくりでも活用されるなど「聞き書き」が今静かなブームを呼んでいます。なぜでしょう?筆者はここ10年ほど岐阜県内の山村に暮らす人々を訪ねて、生業の歴史や生活の変化についてお話を聞いてきました。森林文化アカデミーの学生達と一緒に聞き書きに取り組むこともあれば、個人研究として興味あるテーマを追いかける活動もあります。その中でいくつか興味深い例を紹介しましょう。奥美濃地方の明宝歴史民俗資料館には国の有形民俗文化財指定を受けた「山村生産用具」や「人生儀礼用具」の民具資料が多数ありますが、特筆すべきはそれらを実際に使った体験をもつ語り手の方が存在することです。実物の民具を見ることで記憶が蘇りやすくなります。ヨキなど山仕事の道具の使い方を実際に見せてもらいながら話を聞いたり、山へ持っていくワッパ飯や山中で材料を調達してお菜やお茶を賄うやり方、寝泊りする仮小屋づくりの材料や建て方のお話を聞いた時にはとてもわくわくしました。南飛騨地方の下呂市馬瀬地域は馬瀬川の清流が有名ですが、戦後にアユ釣りが流行する以前から、アジメドジョウなどの小魚をエという仕掛けで獲る漁が盛んでした。その設置方法や獲れた魚を実際に見せていただいた時も、自然の恵みの豊かさや食料を獲得する技術の巧みさに感心させられました。西濃の揖斐川町春日地域は谷あいの急峻な地形の中に集落が点在していて、水田は僅かしかありません。そんな環境の下で人々は茶畑や野菜畑を拓き、貴重な農地を無駄なく使うために、お茶とコンニャク芋を同じ畑に植え、畑の畔にも薬草や豆を植えていたそうです。伊吹山麓にある薬草利用が盛んな集落では、薬草の採取時期や乾燥方法、そして様々な病気に応じて薬草を用いる民間療法の知恵について詳しいお話を聞くことができました。伊吹山の薬草栽培MORINOTAYORI 12