ブックタイトル森林のたより 823号 2022年4月

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概要

森林のたより 823号 2022年4月

法性確認のためのガイドラインが林野庁において導入されている。グリーン購入法の判断基準としてのガイドラインがそれである。その合法性確認の方法としては1森林認証による方法2団体認定による方法3個別企業の独自の取り組みによる方法がある。例えば、3については製紙業界に代表される合法性確認があり、2006年3月に「違法伐採問題に対する日本製紙連合会の行動指針」が策定されている。ただ環境先進国に比べ、まだまだ踏み込みが足りないとの印象は否めない。我が国の脱炭素の国論は、生産から消費に至る各々の段階の環境負荷量の計測と公表にまで及ぶEUの取り組みとは異なり、ひたすら排出源を巡る論議に終始している。なかでも世界的に見てフィンランドに次ぐ森林率68%を誇り、増加の一途を辿る人工林を主として53億m3にも及ぶ蓄積量を持ちながら、僅かに年間0・53%の伐採量しか利活用していない。十分自給できる水準でいながらOECD加盟国の中で25位でしかない木材利用に留まっている現状が、所謂「伐って・植えて・育てる」という人工林の健康度を向上させる好循環が滞り、二酸化炭素の吸収能力の増加を図れぬ状況を招いている。つまり吸収源の能力に対する議論と取り組みが立ち遅れていると言い切って良いであろう。吸収源としての我が国の森林を評価すれば、国内の森林の吸収量は樹種や林齢により異なるが、例えば50年生スギ人工林面積1ha当たりの炭素貯蔵量は170トン、1本当たりでは約190kgに達すると試算(林野庁)されている。また1年当たりの吸収量は、50年の炭素吸収量を1年間平均で計算すると1本当たり約3・8kgの炭素(約14kgの二酸化炭素)を吸収したこととなる。一般的に、ヒト1人が呼吸により排出する二酸化炭素は年間約320kgといわれており、これを自然の世界、とりわけ人工林で吸収するにはスギ約23本が必要と計算できる。次いで自家用車1台当たりの二酸化炭素排出量を年間約2, 300 kgと仮定するとこの吸収に必要なスギは約160本となる。このような頭の体操とは別に、2020年5月に東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻の研究者達より、過去の毎木調査をもとに作られた収穫表から推定する「p-NFI」ではなく、毎木調査の結果から直接見積もりを行う「mN-FI」を用いて、過去の推計評価を実際の測定と比較すると、森林炭素蓄積量については58~64%、炭素吸収速度に至っては41~48%にしか過小評価されていなかったとの研究が公表された。その結果、我が国全土の森林における森林炭素蓄積量(炭素換算)は、mN-FIで30・16億トンと推計され、これまでのp-NFIの推計値17・5億トンと比較し1・72倍もの蓄積量があることが分かった。また、1年当たりの森林炭素蓄積量(炭素換算)は、1, 9 90万トンと過小評価されていたものが、実に4, 8 50万トンに達することが分かった。森林の存在効用。吸収源としての再評価と吸収源取引による林業の活性化前述したような我が国の森林の潜在的吸収能力に着目し、国際的に協約した始まりが「京都議定書」であった。議定書目標達成計画(平成20年改定)によれば、当時の温室効果ガス削減目標6%のうち3・8%を森林吸収源(国際的に吸収源として認められる森林は1990年以降の人為的に活動が行われた新規植林および再植林並びに吸収機能を果たすに足り得る森林経営がなされた森林)とされた。それ以降、我が国でも基本的に京都議定書を基盤にした森林の吸収源としての機能強化に努めてきたものの、総論はともあれそうした森林が持つ潜在的能力の水平展開。つまり、森林所有者や生産者が意欲を喚起するような環境の経済価値についての仕組みづくりを強化しようとする取り組みは低調であったと言わざるを得ない。僅かに京都議定書の第一約束期間の発効に合わせ、2008年に創設された「オフセット・クレジット(J-VER)制度」と「国内クレジット制度」の両制度が見られる程度である。しかし双方共に第一約束期間の最終年である2012年度末で一旦終了した。それでも両制度の活用機会が増加するに連れ、制度上の重複など若干の混乱状態が生じた。そこでクレジットの創出側、活用側からも改善を求める声が大きくなったため、両制度の終了を一年後に控えた2012年4月から6月にかけ、環境省・経済産業省・農林水産省が共同し、2013年度以降のクレジット制度の検討を行うため、有識者会議が設置された。2013年10月から開始された新たなJ-クレジット制度では、2つの旧制度の方法論を統合し、(当初は56種の)多様な排出削減や吸収事業の方法論が選定された。クレジットの申請者は先の方法論など、どのような手法を用いるのかをプロジェクト計画書に明示し、第三者審査機関による妥当性の確認と、J-クレジット制度認証委員会による審議を経てプロジェクト登録を受けるといったかなり複雑な仕組みである。登録プロジェクトは、一定期間実施したのち、排出削減・吸収量の確認を経て初めてクレジットとして発行される。2022年1月現在の認証量は717万t-CO2。登録プロジェクトは885件となっている。2021年4月、菅内閣において温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比で46%以上削減する目標を定めた。その高い目標は結果として排出権取引市場のみならず吸収源取引市場の活性化に働く。目標を実現するために脱炭素を掲げる大企業などの参入が一気に増加するからである。つまり排出削減で先行する企業は売り手として、また自社の削減計画の達成が難しい企業は買い手として参加する状況が生まれるからに他ならない。J-クレジットの価格は言うまでもなく相対取引で決定される。しかし昨今、取引の透明性をさらに上げるべきという批判も生まれつつあり、より透明化された市場で価格決定が図られるように新たな仕組みが検討され始めている。EUでは電力や鉄鋼など排出量が多い業種を対象に、排出上限を企業ごとに割り当て、上限よりも排出量が多い場合は取引市場から購入が義務付けられる「キャップ&トレード」のシステムであり、その導入対象はEUの温室効果ガスの約40%に達する。しかし、現在経産省が検討している案は、企業の参加を任意としている。それ故、削減の実効性を問われる可能性が高い。それは経団連が排出上限の規制ではなく、企業の自主的な取引の活性化を強く要請しているからでもある。一方環境省は企業に削減義務を課すべきで、任意参加では社会経済全体として脱炭素に向かう推進力にならないとしており、新たな市場の創設について政府内でも意見が分かれるところである。岐阜県の取り組みへの督励こうした状況に対し、森林面積が県土の81%を占め(全国2位)、実面積では86・2万haと全国5位にある岐阜県。まさに森林県という立場からは、排出量の「キャップ&トレード」に走る企業の立場(下流)ではなく、世界そして我が国のために健全な森林を維持し、可能な限りその環境機能を強化するとするならば、公益的機能を保有する眼差しからキャップ&トレードの市場創設を見据えなければならない。MORINOTAYORI 4