ブックタイトル森林のたより 823号 2022年4月

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概要

森林のたより 823号 2022年4月

-狐につままれた、アメンボ-【第369回】自然学総合研究所野平照雄●Teruo Nohira平成4年1月30日。この日は私にとって忘れられない日である。以下、その経緯。朝9時、急に娘が関市板取にある根上りスギの群落を見に行こうと言い出した。天気がいいので、快適な家族ドライブになるからだという。しかし、私はこのスギは何度も見ているので、あまり行く気がしなかった。でも、あのスギを見た孫たちの表情。その姿を見たいので、行くことにした。10時出発。しばらくして、昔の板取村へ入った。見覚えのあるところが出てきて、懐かしかった。しかし、新しい建物もあちこちで見られた。ここも都市化?が進んでいるのか。そんな気がした。しばらくしたら「モネの池」と書いた看板。初めて知った名前なので、ここも最近できたのであろう。大勢の人で、駐車場は満車。そのまま目的地へ。途中から道路わきに雪が残っていた。しかし、道には全くない。30分後、スギ群落地の駐車場に着いた。10分ほど歩くとスギ林の入り口。雪が多くなり林内は真っ白で。人の歩いた細い道しかない。ここを上って行った。しかし、靴は夏用のスニーカー。歩きにくいし、よく滑る。慎重に歩いた。それなのに孫たちは駆け足で進んでいった。巨大な根上りスギが見えた。その周辺には何本もある。字数の関係で詳しく書けないが、樹齢300年のすごいスギ群落であった。孫たちは「大きい」「すごい」と驚いていた。そのうちに30年前に見た屋久島の縄文杉が目に浮かんできた。樹齢6,000年。ここのスギとは桁が違う。圧巻だった。雨の中を4時間かけて上って行ったことを思い出し、懐かしくなった。人の話し声が聞こえてきた。下山者が次々と下りてきたのである。どの人も登山靴に冬用の防寒服だ。ある登山者からその姿では危険と言われた。もう少し行きたかったが、帰ることにした。しかし、まだ午後2時。時間があるので「モネの池」へ行くことにした。××××「モネの池」は名前のついていない池であった。しかし、水が澄んでいてあまりにもきれいなので、いつからかこの名前で呼ばれるようになったという。たしかにきれいな水だった。水面は睡蓮などの水草。水中には大きな鯉が泳いでいる。どの鯉もスマートで、地肌や色模様が神秘的に映った。その理由はこの池の水が湧き水(伏流水)であること。見物人が鯉に餌を与えることは禁止。これが徹底しているとのことであった。そういえばよく見かける鯉は丸々と太っていて、地肌は悪い言葉で言えば毒々しい色をしている。やはり水と餌が関係しているのだと私自身も思った。鯉はゆっくりゆっくり泳いでいた。そんな時、水面にアメンボがいた。それも2匹。驚いた。夢ではないかと思った。捕まえようとしたが逃げられてしまった。残念だった。帰路、車中で孫たちとアメンボの話をした。その時Y君が質問した。「なぜ冬なのにアメンボがいるの。何を食べているの」。私は即答できなかった。と言うよりアメンボのことをあまり知らなかったのである。××××帰宅後、アメンボのことを昆虫図鑑で調べた。それによるとアメンボは年に数回発生し、寿命は1~2か月、飛ぶけどその距離は短いなど、いろいろなことを知った。ところが冬をどのように越すのかはわかっていない。越冬するのは成虫らしいが、その場所がわかっていないという。意外だった。しかし、私は数時間前に成虫を見ているので、成虫で越冬するのは間違いない。ところが、この成虫が餌はどうするかなどのことはわからない。そこで、いろいろ考えてみた。その結果、このアメンボは昨年からこの近くで越冬していたが、暖かかったので間違って出てきた。そして再び寒くなればまた越冬し、暖かくなればまた出てくるのではないか。そして春になると本格的に行動し、メスならば結婚して卵を産む。孵化した幼虫は2か月後には成虫になり卵を産む。これを繰り返して年に3~4回発生し、冬が近づくと越冬するという生活だ。このほか、夏の暑い時期はほとんど目にすることがない。ひょっとすると涼しいところでは夏眠しているのではないか。こんなことも思った。××××もうひとつ理解しがたいことがある。雪に覆われたスギ林から、車でわずか30分移動したらアメンボがいたことである。本当に驚いた。「狐につままれたのではないか」と思った。その後もこのことは頭から離れなかった。数日後、北京オリンピックが始まった。連日テレビで放映されるので、こちらへ目が向きアメンボのことは頭の奥底へ。私が好きなのは女子のスケート。氷上を足で蹴って進む選手たち。力強い走りであった。その姿は水の上をスイスイ泳いでいるアメンボに映った。特に、金など4個のメダルをとった高木美帆選手。力強い滑りであった。そのうちに「モネの池」で泳いでいたアメンボは高木美帆選手…そんな気がしてきた。あっという間にオリンピックが終了。すると再びあのことが気になりだした。そのうちに「なぜ、狐なのか。狸では駄目なのか」と思ってしまった。MORINOTAYORI 8