ブックタイトル森林のたより 824号 2022年5月

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概要

森林のたより 824号 2022年5月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹フジの花201山を薄紫色に彩るフジの花。古い文献には「フヂ」と記されていますが、その名の由来は風が吹く度に花が散る「吹き散る」を意味すると考えられています。また日本では漢字で「藤」と記されますが、これは中国でシナフジを「紫藤」と表記していたことに由来するそうです。フジ(Wisteria floribunda)は本州、四国、九州に分布し、別名ノダフジ(野田藤)とも呼ばれます。野田とは摂津国野田村(現在の大阪市)がフジの名所であったことに由来し、関西では「吉野のサクラ、高雄のモミジ、野田のフジ」と言われました。ツルは樹木などに左巻きに巻き付いて登り、光を求めて樹冠で繁茂する好日性植物で、夜間は葉を閉じます。多くの花を付けた花序は長さ20~90cmにもなり、花は生のままサラダや天ぷら、シロップ漬けにして食べられます。しかしマメ科植物はレクチン(lectin)を中心とした配糖体の毒性が含まれるため、多量に摂取するとおう吐、下痢、胃痛などを発症するので細心の注意をはらってください。その他に、樹皮や莢にはウイスタリン(wistarin)、種子には有毒性アルカロイドの一種であるシチシン(cytisine)が存在するという報告もあります。十分加熱処理していない種子を食べると食中毒する可能性が高くなります。実際に私は今から30年ほど前に、しっかり火を通さなかったフで調べると、1961年出版の『牧野新日本植物図鑑』や1971年出版の『原色日本植物図鑑・木本編Ⅰ』ではフジは右巻き、ヤマフジは左巻きでしたが、1989年出版の『日本の野生植物木本Ⅰ』や2016年出版の『改訂新版日本の野生植物2』ではフジが左巻き、ヤマフジが右巻きとなっています。ツルの巻き方を上から見るか、下から見るかが統一されていなかった歴史を、フジを通して感じるのです。ジの種子を仲間と一緒に食べ、おう吐に苦しんだ思い出があります。花の交配は主にクマバチに頼っており、莢が乾燥してよじれ、裂開することで種子を飛び散らせます。寺田寅彦は随筆『藤の実』に、フジの種子が莢から飛び出して10m近く離れた障子に当たったことを記しており、その後の研究から秒速61・3mで飛んでいくことを割り出しています。さてフジと言えば、多くの人がフジとヤマフジを混同されています。フジはツルが左巻きで、花序が長く、花は花序の根元の方から順に咲きます。これに対してヤマフジ(Wisteriabrachybotrys)は、東海地方以西から四国、九州の比較的暖かい場所に多く分布します。ツルはフジとは反対方向の右巻きで、花序は15~25cmとフジよりも短いですが、花はフジよりも大きく一斉に咲きます。このツルの巻き方について図鑑▲短い薄紫色の花序を付けるヤマフジMORINOTAYORI 6