ブックタイトル森林のたより 825号 2022年6月

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森林のたより 825号 2022年6月

活かす知恵とを森林人113●詳しい内容を知りたい方はTEL(0575)35ー2525県立森林文化アカデミーまでヤナギのこと岐阜県立森林文化アカデミー教授●柳澤直あっても得意な場所が違っているのは興味深いですね。種類が違っても河川沿いに生活の場を持つヤナギ属の樹木には共通の生態的特徴があります。それは栄養繁殖を旺盛に行う、という点です。たとえば強い流れで太い枝から細かい枝までが途中で千切れて流されてしまっても、幹ごと流されてしまっても、流れ着いた先で芽を出し、根を出して新しい幹を仕立てることができるのです。多くの動物と違って、部分が残っていれば個体が再生できる植物の特性を存分に活かしているといえるでしょう。頻繁に増水して撹乱に遭いやすい立地に生育しているヤナギたちにとっては分布を広げるのにも役立つ合理的な生態だと思います。これを活かした河川の護岸のための工法に「柳枝工(りゅうしこう)」があります。水から上に出ることの多い護岸法面にヤナギの枝を敷き詰めておくことで、数年後ヤナギの林が成林し、その根で護岸をしっかりと固定するというものです。これもヤナギの生態をよく知っていた先人たちの智恵ですね。ちなみにターザンごっこをしてぶら下がっていたシダレヤナギの枝は折れやすく、ぶら下がったはいいものの、よく落っこちていたのを思い出しました。今にして思えば、さもありなん、といった感じです。さて、今回は私の名前にも入っているヤナギについて取り上げてみたいと思います。ヤナギは身近な自然、特に河川や水辺に多く見られる樹木で、古くから日本人に親しまれているものの一つです。花札の11月の札はヤナギがモチーフになっていますし、夏の夜に幽霊が出るのは川端の柳並木の側と相場が決まっています。私も子どもの頃にシダレヤナギの枝を束ねてぶら下がり、ターザンごっこをして遊んでいた記憶があります。しかし、我々が身近に目にするのは日本の自生種ではなく、中国から導入されて植えられたシダレヤナギかウンリュウヤナギがほとんどで、日本に自生するヤナギの中で誰でも知っているメジャーなものはネコヤナギくらいではないでしょうか。その綿毛にも見えるフワフワの花は早春を告げる花として人気であり、華材としてもよく扱われます。森林文化アカデミーのある岐阜県美濃市周辺の河川敷で普通に見られるヤナギには、ネコヤナギ・カワヤナギ(ナガバノカワヤナギ)・コゴメヤナギなどがありますが、それぞれに出現する場所と樹体の大きさが違います。ネコヤナギは水しぶきを浴びるくらいの、川の流れに最も近い場所に生えていて、樹高も人の背丈とそれほど変わらず残りの2種に比べて小さいヤナギです。コゴメヤナギは大雨のあとの増水で根元が水につかることはあっても、普段は水につからない流路から少し離れて高い場所に生育しています。樹高も大きくなり、20m以上になることも珍しくありません。これは増水による撹乱で木が根こそぎ倒される機会が少ないことと関係がありそうです。カワヤナギは生育場所も大きさも前二種の中間くらいになります。同じヤナギで写真1:早春のネコヤナギ切り花でお馴染みなのは雄花。長良川(美濃市)写真2:早春のコゴメヤナギ開花期には花で全体が黄金色に染まり美しい。長良川(美濃市)MORINOTAYORI13