ブックタイトル森林のたより 825号 2022年6月

ページ
6/20

このページは 森林のたより 825号 2022年6月 の電子ブックに掲載されている6ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

森林のたより 825号 2022年6月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹フジハバキ202全国に知られた関ケ原町の今須択伐林、ここは見事な森林を維持管理するための枝打ち技術でも全国的に有名でした。今須の枝打ちは無節の柱や板をつくるためだけでなく、複層林の下層木に光を当てる目的で一般的な枝打ちよりも高くまで打ち上げるのが特徴でした。その枝打ち職人の第一人者が1970年の大阪万博で、カナダの木登り世界チャンピオンに、木登りで勝利した山本総助さんです。生前、私も何度か山本さんと仕事をさせて頂き、今はご子息の晃治さんにお世話になっています。今須では木登り道具である「ぶり縄」と、枝を打つ「今須鉈(なた)」、脚に巻く「フジ脛巾(はばき)」が、枝打ち職人の三種の神器のようなものです。「ぶり縄」は一本の長い麻縄の両端にウワミズザクラやクロモジの棒を結んだもので、これで木に登ります。「今須鉈」は先端に「チボ」と称する突起がつた独特のナタで、重さを利用して枝を切り取ります。「フジ脛巾」はふくらはぎに巻く脚絆で、自分でフジ蔓を採取して編んで利用します。昔の今須は冬に約2mの積雪があって山仕事ができないため、フジ脛巾をいくつも作ったそうです。フジ脛巾は立木を脛(すね)と脹脛(ふくらはぎ)で挟んで登る時に滑りにくく、厚みがあるため体を支えやすいのです。よう麻紐で根気よく編み上げます。フジ脛巾は天然素材であるため、濡れたものをそのまま放置すると腐りやすくなるため陰干しして使う必要があります。最近ではこの手間が面倒だとして化学繊維などで編んだ脛巾を使う方もみえますが、立木に登った時の吸いつきはフジ脛巾にはかなわないそうです。材料のヤマフジはスギやヒノキによじ登っている真っすぐな直径3cmほどのものが良く、曲がったり、捻れたり、太過ぎるものは良い繊維が採れません。ヤマフジは生えている場所や色合いによって3種類に分け、岩場に生える「岩フジ」は繊維が弱く、林地に生え表皮が白い「白フジ」は内皮が薄く、表皮が赤っぽい「赤フジ」は内皮繊維が厚く最良とされました。特に赤フジでも、表皮に繊維方向と直行する皺が多くあるものは、質が良く「チヂラ」と呼ばれました。落葉後12月までに採取する蔓は、親指ほどの太さの5~6年生赤フジのチヂラを、長さ1mほどに切って2週間ほど天日乾燥させ、石の上で槌で軽く叩いて内皮だけにします。仕上げとして灰汁に浸けて、繊維を柔らかく丈夫にさせてから水洗いして乾燥すれば編材が完成します。脛巾にはフジの繊維を2つ折りにし、厚み1cmほどの脛巾になる▲3ヶ月掛けて作成してもらったフジ脛巾MORINOTAYORI 6