ブックタイトル森林のたより 826号 2022年7月

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概要

森林のたより 826号 2022年7月

文:樹木医・日本森林インストラクター協会理事川尻秀樹カラスビシャク203夏至から数えて11日目、陽暦の7月2日は七十二候の1つ「半夏(はんげ)または半夏生(はんげしょう)」と言います。昔は田植えの最終目安を「半夏生」までとしていた地域も多く、半夏生を過ぎてから田植えをしていては例年の半分しか収穫が見込めないとして、半夏より前に田植えを終えよという意味で「半夏半毛」、すなわちハンゲハンモウとハンゲハンゲの語呂合わせで言い伝えていました。この他にも、半夏にはハンゲという毒草の影響で「天から毒が降る」として、野菜の収穫を控える地域もあったそうです。このハンゲとは、北海道から沖縄までの日当たりの良い畑などで見られるサトイモ科ハンゲ属のカラスビシャク(Pinellia ternata)のことです。球茎から長い葉柄のある3つに分かれた葉を出し、6月~8月には葉とは別に地中から高さ20~40cmにもなる花茎を伸ばします。花は多くのサトイモ科植物に見られるような仏炎苞(ぶつえんほう)があります。仏炎苞とは仏像の背後の光を表す飾りを象ったような苞で、花は仏炎苞に被われて目立たないため、臭いでハエの仲間を誘き寄せて受粉します。和名の「烏柄杓」は仏炎苞の一部が黒色で、形が水を汲む柄杓(ひしゃく)に似ているため、カラス色の柄杓もしくはカラスの使う柄が、生薬としての有効成分は判然としないそうです。また乾燥させた球茎には、目に見えないほど小さな針状の蓚酸カルシウムの結晶が付着しているため、生薬を加工する過程でこの結晶による皮膚炎が発生するほど、取り扱いが難しい生薬とされます。日本では畑の雑草として目の敵にされるカラスビシャクですが、現在でも中国などから大量に輸入されている生薬なのです。杓の意味で名づけられました。別名にヒシャクショウナカセ(柄杓商泣かせ)、カラスノオキュウ(烏のお灸)がありますが、私が好きな別名はヘソクリです。昔、農家の主婦が畑の草取りの合間に、カラスビシャクの球茎(塊茎)を集め、薬屋に売ってヘソクリを貯めたことが由来とされます。カラスビシャクの球茎は外皮を剥いで乾燥したのは生薬で「半夏」と呼ばれ、古くから痰を切り、咳を止め、吐き気を抑え、妊婦のつわり止めや車酔いに用いられました。毎年10月ごろに球茎を採取して出荷されていましたが、古い文献によれば産地は岐阜、長野、新潟、神奈川とあり、特に神奈川県三浦半島のものは「三浦半夏」と珍重されました。この半夏にはアミノ酸類やシステロール、ステアリン酸などが含まれています▲小さいながらも仏炎苞が明確なカラスビシャクMORINOTAYORI 6